登山のための地図情報
地図の教科書を開くと、最初の分類として「一般図」と「主題図」に二分される。ここでの中心テーマはそれなので以下省略でもいいのだけれど、念のために触れておきたい。
地図は100%縮小されているから、現実の空間をどれほど小さくまとめているかという縮尺によって内容が変わってくる。最近ではインターネット上で地図を利用する人が多いと思うが、縮尺を変えるとただ単に表示サイズや表示範囲が変わるのではなく、描かれている内容が変化する。なかったものがあらわれたり、あったものが消えたりする。縮尺はそういう内容の取捨選択という意味も含んでいる。
実測図か編集図かという分類もあるが、これは測量によって作ったオリジナル地図か、それを引用した地図かという違い。ほとんどは編集図で、ごく一部に実測図のシリーズがあるのだが、登山用の地図がその実測図にからみあっていることから、ここでは重要な分類項目と考えることもできる。
「一次情報」かどうかという意味が大きいのだが、品質に直接関係してくるのは縮尺率の小さい「大縮尺図」(縮尺率の数値が大きいという意味だろう)で、簡単にいえば国や地方の税金で作る基本地図というふうに考えておけばいい。そしてそれはいろいろな目的に使うことのできる汎用地図でなければならないところから「一般図」の中核をなしている。
国土全体を均一な精度で描こうとした実測図には「国土基本図」という称号が与えられていて、かつては「5万分の1地形図」、現在は「2万5000分の1地形図」となっている。民間の地図会社が作る登山地図は「2万5000分の1地形図」という一般図から編集した「主題図」と考えていい。
国土の約30%を占める平地ではもっと詳しい実測図がつくられて、「5000分の1国土基本図」や「2500分の1国土基本図」もある。そういうものがベースになって住宅地図やナビゲーションマップなどが編集されている。
もうひとつ、「切図」と「全図」という区分がある。1枚で完結する地図と、大面積の地図を切り分けてハンドリングする地図とがある。あるサイズの地図に扱いたい現実の面積を入れようとすると、それに合わせた縮尺になる。それに対して切図は一定の縮尺で作ってしまった地図を切り分けて利用するという違いがある。
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| ■スイスの2万5000分の1地形図 地図というより美術作品というべきスイスの地形図は2万5000分の1も5万分の1もテイストが変わらない。まねはできないが近い図がどのように山を描いているかは知っておきたい |
さて、登山のための地図が民間の会社から発売されているが、シリーズのボリュームからいって昭文社の「山と高原地図」はダントツといっていい。日本のポピュラーな山はほぼ網羅されているといっていい。
山ごとに作られている「全図」なので、縮尺は統一されていない。主題図なので登山者用の情報が主役となって浮かび上がっている一方、一般図の基本骨格のいくつかが後退している。
登山情報として重要なのはもちろんルートの指示。登山道は無数にあるけれど、この地図では赤の実線で描いた道について責任を持とうとしている。
その登山ルートにかかわるコースタイムや水場、山小屋、危険情報、登山者が共有したい地名などの固有名詞などなど……が書き込まれている。
一言でいえば「ガイド地図」だ。かなり能力のあるガイドさんが地図上に情報を書き込んでくれた地図というイメージが近いのではないだろうか。地図に直接書き込みすれば、文章で語るより簡便なことがいろいろある。しかも「○○年版」とあるように、情報の更新にも価値がある。古い年度のものと比べてみるとたしかに違う部分がある。情報は新しいことに価値があるのだから、それが一番の付加価値かもしれない。
ある方向に進めば、分類項目の反対側では失ったものがある。主題図になったことで一般図から遠ざかった。全図となったことによって縮尺の統一が捨てられた。そしてそのふたつのことに起因するのだが「地形図」から大きく遠ざかってしまった。平面図の中で立体を表現しようとして考案された等高線情報が大きく後退してしまったのだ。
登山用地図はある山域をテーマにしたことで周辺との格差を生んだが、特定のルートを強調するために山全体の地形を描くことでも後退した。等高線の役割を軽くした。そのことによって道が等高線とどうクロスしながら進んでいくのかというナビゲーションの肝の部分が弱くなった。(【講座4】「机上登山のすすめ」を参照してください)
