昔、テレビで
湾岸戦争のころだから古い話になるが、テレビの深夜番組(テレビ朝日・プレステージ)のなかで小さなアウトドア番組をもっていた。
番組は毎月1回の月〜金で11回続いたが、その9回目、1992年の2月に「雪上遊戯」というのをやった。ちょうどアルベールビル・冬季オリンピックにぶつけて……。
日本海側に新しくできたスキー場とのタイアップで1泊2日のロケ条件を確保し、女性タレントや女子大生とともに出かけた。雪に飛び込む、雪面で泳ぐ、深雪へジャンプ、斜面で後転、滑り玩具実験など、素朴な肉体派テーマに加えて、スキー場で露天風呂に入るとか、スキー専用マウンテンバイクの紹介とか、雪洞でパーティなど、ゲレンデとゲレンデ脇の深い雪を存分に利用していろいろやってみた。
露天風呂沸かしではステンレス製の五右衛門風呂をメーカーから借り出した。背負って歩けるという軽さが売りの商品登場まではよかったのだが、雪をまっ正直に湯にするのはとてつもなく大変ということをまったく理解できない相棒ディレクターのおげで、180リットルの湯を沸かして入浴するまで、まるまる一晩かかってしまった。
一気にいろいろなアイディアを実行してみて、いちばんおもしろかったのは素朴な「雪泳ぎ」だった。深雪の急斜面に飛び込むとほとんど自然にズレさがっていくのだが、そこで手足をバタバタさせて泳いだ気分になる……というだけのこと。
ところがやってみると想像したほど単純ではない。まず最初の飛び込みに勇気がいる。ふつうなら足踏み状態でズレ下がっていくような急斜面に、飛び出して頭から突っ込むような動きをするにはけっこうな気合いが必要なのだ。
そして雪面にズボッと埋まる瞬間の意外な感動。やわらかさもあるけれど、その白い物質に包み込まれてしまって瞬間動けなくなる衝撃と、それから脱出する解放感。外から見ていると半分雪に埋もれただけで、軽くもがいているだけなのだが、当人には生まれて初めての不思議な感触が身を包む。
それから手足バタバタでいろんな泳法を試してみる。半分ズレ落ちながらの泳ぎだからなんでもいいようだが、平泳ぎだと雪の中の手が半端な力では動かない。とにかく手を雪から抜いて前方へ伸ばしてかくのがいちばん合理的なのでおおかたクロールになる。抜き手だの、犬かきだの、バタフライだのと試みてみるのもおもしろい。
昔スキーを習った人間にしてみれば、今のスキー場は管理されすぎている。露天風呂の湯がようやく湯気を立て始めたころ、スキー場は突然にぎやかになった。まだ夜明け前だというのに圧雪車が何台もゲレンデを走り回る。
いまのスキーゲレンデは限りなく舗装道路に近いのだ。前輪をスキーに換えたスキー専用マウンテンバイクやスパイクタイヤや専用チェーンを装着したマウンテンバイクで下るのも、なんの問題もない。もちろんふつうの靴でふつうに歩ける。
そのスキー場は日本海側につくられたので雪の量は豊富だった。スキーゲレンデが人工的に固められているのに対して、その外側にはやわらかなバージンスノーがふんだんにある。昔なら腕自慢のスキーヤーが見栄を張ったシュプールをそういう斜面につけていたと思うが、今はだれも圧雪コースからはずれない。
いいスキー場は、いい雪をふんだんにもっている。それが一番の財産のはずであり、その雪の楽しさをおおいにエンジョイできるように、ロープウェイやリフトなど、輸送手段を完備している。スキーやスノーボードはもちろんけっこうだが、特上のバージンスノーを捨てておくのはもったいない……と考えるようになった。