保温と断熱
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アウトドアの基礎知識としてのレイヤーシステム(重ね着)は、一般的には「暖かさの調節」というふうに理解されているようだ。その上限、すなわちもっとも寒い状態をどのように設定するかによって考え方が大きく変わってくるのではないかと思うのだが、バブル期の六本木では20万円もするノースフェースの羽毛ジャケット(色は白)がその上限であったといわれる。 ノースフェース・ブランドの大半は国内仕様となっているのだそうだが、ブランドイメージを支える極地仕様のそのジャケットだけは本家本元のオリジナルの限定輸入だから、レアものとして六本木で評価されていたという。 羽毛は「あったかい」と思っている人が多いが、正確には「寒くない度合いが大きい」というふうに理解しないといけない。すなわち断熱効果が高いというだけのこと。体を動かすとその熱が逃げないので暖房の効きすぎた部屋で生活している状態になって、からだはそれに順応して、モコモコの羽毛ジャケットをそれほど暖かいものと思わなくなる……とノースフェース関係者から聞いたことがある。 羽毛神話がいまも根強く生きていて「あったかさ」の象徴として買いたくてしょうがない人が多いようだが、もうひとつ、日本の冬が「湿っぽくて寒くない」という現実ときちんとすりあわせていない人が多い。 私の場合、太平洋岸の日帰り登山では(1)夏冬兼用の半袖Tシャツ、(2)いくぶんあったか系のブラウスシャツ(山シャツ)、(3)冬用ではない薄いタイツ、(4)夏冬兼用の速乾性ズボン……が基本と考えている。 重要なのは(2)と(3)で、「冬用」にしてはいけないというところが要点となる。 もちろん「暖かさ」を求めたい状況があるわけだから、それを悲観的に考えるか楽観的に考えるかで選択肢が大きく違ってくる。
私の流儀では、「貼るカイロ」を隠し持つことによって楽観的姿勢を貫くという方法をとる。断熱性能が安定している(9)フリースジャケットと、用心深くする必要がある場合にはさらに(10)フリースパンツを予備として持ち、ゴアテックスとその同等品による(11)レインウエアをウインドブレーカーや屋内乾燥室として、厳しい環境から身を守るバリアスーツと考えている。 まずこれだけの「防寒」「防冷」装備で、真冬のスノーハイキング(たとえば八甲田山、蔵王、美ヶ原、奥秩父、上高地など)を問題なく実施してきた。 |
熱源を確保する
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冬の防寒装備を楽観的に考えるには、「あったかい服」という概念を捨てなくてはいけない。人間の肉体そのものが燃料を投入してエネルギーを発する熱源なので、登りではしばしば発熱分をうまく放出してやらなければいけない。 日本の冬は「意外に暖かい」という認識を持つことによって、汗をかく場面を徹底的につぶしておかなければいけない。最終的に半袖Tシャツになるという余地も残しておきたいのはそのためだ。日だまりハイクはまちがいなく、気持ちいいほどあったかい。日が射して風がないのだから当然だ。 十分に「冬の寒さ」であっても、がんばれば汗をかく。つまり強制冷却しなければならないほど多量の熱を発生する。暖かくするにせよ、寒くしないにせよ、室内でストーブの温度調節をするように、発熱量の調節をすることが、冬には基本的な技術要素となる。 つまり、肉体そのものが発熱体なのだから、その熱を「うまく逃がす」とか「できるだけ逃がさない」という観点で「寒くならない服」――すなわち防寒を実現したいのだ。
それに対して「防冷」としたのは、からだの末端部分に対する防御だ。これは0度C近辺の環境では雪の湿りが手袋を濡らす、というような危険な場面を想定しなければならない。零下10度C前後になると雪で濡れるということはなくなるが、手の汗が湿りとなって、冷えを誘発する。また耳に当たる冷たい風は思考力を大きく阻害するので、副次的な危険が増大する。 凍傷の危険と隣り合わせの本格的な厳冬期登山、あるいはヒマラヤ遠征などの高所登山では、凍傷を防ぐために手や足の指先を動かし続けるといったケアが重要になるのだが、歳とともにそのような自前の熱源が使いにくくなる。 そこで外部から熱源を挿入してやるという考え方を積極的に導入することで、要「防冷」個所に強制的に熱源を与えてやり、肉体側の発熱能力に異変が生じたときの「防寒」にも備えることができる。 「貼るカイロ」は簡単にいえば鉄粉とおが屑と水分を材料にしているので装備としては重い。しかし冬の登山の非常用装備としてはいろいろな合理性をそなえている。 |

