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毎日が山歩き 案内人 伊藤幸司(糸の会・登山コーチングシステム)  50歳を過ぎてからでも楽に山歩き、愉しく山登り、のんびり山遊びが楽しめる毎日を紹介します。

講座 2006.10.25更新  

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【講座25】アンダーウェアという1次バリア


抗菌・防臭性肌着の実験

この夏に飯豊連峰を縦走した。避難小屋3泊というペースで福島県山都町の川入登山口から登り、丸森尾根を山形県小国町の飯豊山荘へと下った。メンバーは54歳から71歳までの9人で女性7人。平均年齢は60歳。まあふつうの中高年グループではないかと思う。

避難小屋泊まりだから食料を10食持った。水は各小屋で得られたが、夏用ながら寝具を持参した。通常、私の小屋泊まり計画では、「10kgを背負って最大10時間の行動」としているが、このときはみなさん、ザックの重さが12kgを越えていた(私は久々の30kg余)。

ザックの重さにどれだけ耐えられるかという積載能力では、上限域からの上積み分はズシリとこたえる。しかも初日は標高差で1,000m以上を登る。当然、汗びっしょりになるはずだ。……じっさい、その日は猛烈な暑さで、全員尋常ならざる汗をかいた。

大汗をかいたが、私たちは着替えなしで4日間を過ごそうという計画だった。抗菌・防臭機能をそなえたアンダーウェアが一般にもかなり出回っているが、登山用のものでどれほど有効かという確認をしたかったのだ。

ところが2人が2日間でギブアップした。その最初がなんと私だった。2日目の行動中、自分自身の汗くささがときおり気になった。だんだんひどくなると感じたのだ。これは周囲に迷惑をかけるかな、と思ったほどだ。私が敗北宣言をしたら、待ってましたとばかり着替えた人がいた。私同様、我慢ができなくなっていたという。

私のTシャツは半年間使っていた。抗菌・防臭機能がいつまで保つか知りたくて、積極的に着ていたし、山から帰ってからもしばらく着続けてみるというようなこともしていた。かなりの回数、洗濯をしていたので、機能が低下したのではないかと思われた。実験には新しいものを用意すべきだったのだろうが、それをうっかり忘れたのだ。

■飯豊縦走の3日目夕食 ― 2006.8.3

飯豊山と大日岳の中間にある御西小屋。2人はここでアンダーウェアを取り替えた。雪渓が残っていて、日が傾くととたんに涼しい風が吹いた。

糸に特殊な物質を練り込むというような抗菌繊維、抗菌・消臭繊維は多くの繊維メーカーが開発している。「122日間着続けて臭いなし」という竹布Tシャツ(3,990円)や竹布ソックス(2足2,100円)などもある。

ともかく、1週間ぐらいは着っぱなしで我慢できそうな気配なので、それを確かめてみたかったのだが、あっけなく挫折してしまった。もうひとりのリタイア組は、じつは抗菌素材のアンダーウエアではなかった。ほかの7人はけっきょく不快な思いなしに縦走を終えたので、抗菌・防臭機能は一応有効だと判定した。


ステテコを撲滅せよ

これから山歩きをはじめようとする人たちに、最初に用意してもらいたい装備についてはすでに書いた。(講座3「最初に用意する装備」

  1. はきなれた運動靴(スニーカー、ランニングシューズ、テニスシューズなど)
  2. 登山用品店(あるいはアウトドア用品店)で売っている肌を乾燥させる
    (ウイックドライ)タイプの半袖Tシャツ
  3. 持ち物が全部入るザック。ない場合には登山用品店で容量25リットル以上の
    デイパックを購入
  という3点衣類としては登山用のTシャツを最初に掲げているわけだが、正直にいって、その半袖Tシャツ1枚で最初の1年間を通せると考えている。冬用はいらないのかという心配はご無用。暖かくしたい場合はその上にフリースなどの保温専用衣類を重ねるとして(よほど寒い山に登るのでなければ)肌着は夏冬兼用の半袖Tシャツ1枚でいいと考えている。

むしろ太平洋岸の日だまりハイクでは、半袖1枚になりたい日もある。登山用品店で売っている冬山用のアンダーウエアなどを着ると、暖かすぎて脱ぎたいことがしばしばあるのに、冬用のアンダーウェアは下着っぽいものが多いのでままならない。無用な汗をかかないために、保温効果をうたうアンダーウェアは冬でも避けたいのだ。

問題は、登山用のTシャツとしてすすめるのは化学繊維100%のものということ。アレルギーがあって化学繊維のものが着られないという人は最初から除外するとして、慣習的に化学繊維がダメと思っている人がいる。じつはかなり多いのだ。

女性の場合はたぶんそれほどではないと思うが、男性の場合、ステテコを脱ぐまでが大変なのだ。ステテコが脱げない人はたぶん、上のシャツも綿の縮みや、ウールの肌合いから逃れられない。化繊のシャツなんてベタベタしたり、カサカサしたり、チリチリしたりして着てなんていられるか、とつぶやいている。ステテコを脱いで、七分丈のタイツをはけるようになるまで、私は気を抜かない。真夏だからといって、3,000m級の山にステテコで来ているかも知れないからだ。

あるとき、白馬三山の稜線でカサでは危ないという程度の風雨になった。特別な悪天候ではなかったが、雨具をつけて歩いていた。するとひとりの男性の調子が悪くなった。顔色が悪くてガタガタとふるえているではないか。案の定、綿のシャツとモモヒキだ。周囲の人にはなんでもない夏の稜線で震えている。そこで、雨の中、私のTシャツを着てもらった。シャツ1枚替えるだけで、からだの冷えがピタリと止まった。上から重ね着をしていくよりも、肌と衣類との関係を刷新したほうが断然効果的なのだ。

原則論としては水分を吸うものを上に着る。たとえば薄いブラウスシャツを羽織って、水分を吸い上げる。夏なら綿の薄いもの、冬ならウールの薄手のセーターなど……と書きたいところだが、日本の冬ではウールは化学繊維100%のフリース素材によって完全に置き換えられたと考えたほうがいい。もっと低温の乾いた冬にはまだ天然繊維の出番があるとしても、日本の湿った冬にはフリースがタフだから。

ともかく、ここでアンダーウェアといっているものは、ただ単純に肌と接して、肌の湿り気を物理的な毛細管現象で排除させるという役割に専念させてもらいたいのだ。保温の重ね着は一般的なイメージで大きな問題はないのだが、ウインドブレイカーなどと呼ばれるもので冷たい風をカットして体温が奪われるのを防ぐのと、フリースなどの保温衣類を着こんでおいて、冷風を入れて温度調節するのと、方向は2つに分かれる。

防寒と保温を分けて考えることによって調節の精密さを高めるという意識が重要だといいたいのだが、これは梅雨時の雨の日にレインウエアを着るかどうか、どのように着るかという問題とリンクしてくる。

気温が10度C以下であれば濡れるのを防ぐことを前提として考えて、10度C以上であれば、雨で濡れるのは一定程度許しつつ、汗で濡れるのを避けるようにしたい。気温が10度Cの場合、体温が36度Cだとすれば温度差が26度Cある。濡れるのを防ぐためにウインドブレーカーになってしまうところを、暖かい空気を上に逃がし、下から冷たい空気を引き込むような空調環境を整えてやるという保冷機能を添えることができる。

気温が20度C以上あったらどうするか。ある程度濡れてからレインウエアを着ることで、透湿機能が湿り気をゆるやかに緩和してくれる。極端にいえば、レインウェアの内部空間で湿った衣類を室内干しにするというイメージだ。それを行動パターンと組み合わせれば、登りでは濡れることを恐れずに汗をかかないように心掛け、下りでは湿った服を体熱で乾燥する方向で調節する。

ゴアテックスに代表される透湿防水のレインスーツを単機能の雨具と考えるのではなく、空気調節弁のついたバリア(障壁)というふうに考えると、運動によって発する水分と熱をどううまく調節して室内空間をコントロールするかという空調技術ということになる。


■櫛形山にアヤメを見に行く ― 1997.7.12

夏の雨の日には、雨傘派とレインウェア派が混在する。本降りだと思ったら雨具の下をはいた方が安全だ。上をどうするかは各自それぞれ考え方がある……としたい。

そしてその目指すところは、アンダーウエアを内側の1次バリアとして、からだが発する水分を肌から引き離して室内空間に放出することにある。保温か冷却かという調節も重要だが、歩き方そのものを調節して、発熱量をコントロールすることが重要になったら、歩き方を進行管理重視から体調管理重視へと切り替える。

いかなる場合にも、内側の1次バリアとしてのアンダーウエアが肌の乾燥を守れる領域を守るという意識が重要なのだ。


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