おとなのたまり場 > いつでも Bon vivant > 毎日が山歩き > 物語7
毎日が山歩き 案内人 伊藤幸司(糸の会・登山コーチングシステム)  50歳を過ぎてからでも楽に山歩き、愉しく山登り、のんびり山遊びが楽しめる毎日を紹介します。

物語 2008.3.27更新  

  1頁 頁2

【ブランド物語7】ダーミザクス(東レ)


通風と透湿に関する誤解

今回、どうしても確かめておきたかったのは、防水透湿雨具の「撥水」維持についてだった。

一般的にいうと、防水透湿雨具のメンテナンスとしては(1)洗濯する(2)アイロンをかける(3)撥水処理――がすすめられていて、みなさんこまめにやっているようだ。

  問題はそれが撥水ではなくて「防水」と誤解されているフシがあることだ。

雨の中を歩くと、雨は水玉になって転げ落ちる。ところが雨具が古くなってくると雨が表面にしみこんで、濡れた雨具を来ている状態になってくる。

雨傘ではまさにその撥水が防水を実現しているのだが、ここで取り上げている防水透湿は表布の内側にラミネートされたりコーティングされたメンブレン(薄膜)によってすべての機能が担われている。

だから布の表面が濡れていても、防水性能には関係がないと考えていい。しかし透湿機能には関係があると考えるのが一般的だろう。表の布が濡れてしまうと、たとえば窓を閉めたような状態になって水蒸気が外へ逃げるのを阻害する。透湿機能を低下させないために撥水処理がすすめられているのだ。

初代のエントラントでは洗濯回数3回で撥水性は低下したが、現在では50回洗濯しても撥水機能が維持されるという布が投入されている。

「しかし、ですね、雨で濡れた状態でも透湿機能は生きているんです」

先に「無孔質タイプの薄膜フィルムをラミネートしたエントラントHB」というのを紹介したが、「無孔質」だと「水蒸気の直径より大きいので、水蒸気は通すけれど」と書いた「微多孔」の説明では矛盾が生じる。

外側の布に水の膜ができていた場合の水蒸気の移動はポリウレタン素材そのものを高親水性にすると水分拡散性が大きくなる。微多孔膜の場合にはそれが防水能力を落とす原因になるのだが、無孔膜では防水機能は保持したまま透湿度を上げることが可能になるという。

高親水性のポリウレタンを木の壁と考えるとわかりやすいそうなのだが、素材の吸湿性によって水分をガス成分として取り込むと、濃度の高い方から低い方へと移動するのだという。

たとえば気温10度Cのとき、外側の布が濡れて水の膜ができた状態だと湿度は100%。そのときの水蒸気分圧は9.21mmHgになるという。身体側が気温30度Cで湿度50%だったとすると、こちらの水蒸気分圧は15.91mmHgとなる。水蒸気は内側から外側へと抜けていく。

もちろん、外側に水の膜がなければ湿度はうんと下がるので、水蒸気の抜ける効率はずっとよくなる。透湿機能を高めるために撥水機能を回復するのは有効なのだ。

その撥水機能回復のために撥水スプレーを使う人が多いのだが、私は英国ニクワックス社の「TXダイレクト・ウォッシュイン」(液体300ml)をすすめてきた。指定濃度の溶解液を大きなポリ袋に入れて処理すると、少量ですむだけでなく、ザックなどの撥水加工も簡単にできる。仕上がり後の風合いがものすごくいいのも推薦の理由だ。

ところが、春田さんの話を聞いていると、洗濯とアイロン掛けだけで十分なのだ。

摩耗耐久撥水ファブリックと称される新しい「Kudos XR」を表布に使用すると、50回洗濯した後でも十分な撥水力を維持している。加えて、400g加重を50回という摩擦を加えても実用的な撥水性能を失わないという。

その考え方はこうだ。布の表面に撥水基と呼ぶ繊維の柱を無数に立ててある。それが倒れにくくなるように支柱を強化しているのだが、汚れや摩耗によって倒れてくる。それが撥水性の低下と考えられるのだ。洗濯して汚れを取り、アイロンで熱を加えることによってその撥水基を再び立ち上がらせると、撥水性が回復するというのだ。


写真は防水透湿素材を代表する3タイプの顕微鏡写真。左からポリウレタン無孔膜(ダーミザクス)、ポリウレタン微多孔膜(エントラント)、PTFE微多孔膜(ゴアテックス)

ダーミザクスの進化

ポリウレタン微多孔膜によってエントラントが誕生したが、「微多孔膜」ではなくて「無孔膜」の系譜として誕生してきたのがダーミザクスだった。透湿性能でいえば微多孔膜が「A-1法」に合っていて、無孔膜が「B-1法」に合っていた。大ざっぱにいえば、軽い運動向きで、かつ蒸れにくいのが微多孔膜、低温時に激しい運動をした場合の内部結露の排除に向くのは無孔膜という方向に分かれていった。従ってダーミザクスは登山、スキー用品として展開してきた。

私は永いこと、エントラントは普及路線でダーミザクスは高級路線と信じ切っていたけれど、じつはそうではなかった。

もっともその責任は春田さんのほうにもある。エントラントに無孔膜を加えたのものが登場したことはすでに紹介したが、ダーミザクスにも微多孔膜のものが登場している。エントラントもダーミザクスもそれぞれのマーケットにおいて、入り交じりながらかなり自由に性能特化をはかっていると考えたほうがいい。わかりにくい状態なのだ。

最新のダーミザクスZRは透湿能力を「B-1法」で30,000g(平米・24時間)以上(2レイヤーの場合)とし、通常の3レイヤーでも24,000g(平米・24時間)以上という高性能を実現した。それに対してダーミザクスMPはエントラントと同じ微多孔膜を採用することによって「A-1法」の能力を10,000g(平米・24時間)以上としながら、「B-1法」でも高い水準を保っている。

こうなると、よほどのマニアでないと、何がどういいのかわからないという不満の声も聞こえてくる。わたしも今回取材して、いろいろ資料もいただいたが、目的のものを購入しようとしても、さてどうしようと考え込んでしまう。


ゴアテックスはその時期、その時期に出しているものはいわゆる「世代」であって、どのメーカーでも同じものを使っている。だからゴアテックスはいつもゴアテックスですむのだ。

ところが東レはエントラントでもダーミザクスでも、素材として卸すので各メーカーが使用しやすいように、性能、性質、価格などのバリエーション展開をしている。どれをどう使うかは各メーカーの最適化において決定されるのだ。

たとえばゴルフ用品では、透湿機能が生死に関わる危険はあまりない。だから快適性を追求しやすいエントラントが最適だし、裏地をつけない2レイヤーのほうが軽量コンパクトにもなる。その代わり、ストレッチ性をもたす裏側の膜面を銀色にして保温性を高める、カメレオン繊維を使って環境温度に応じて色の濃淡を変化させ、太陽光を吸収/反射させる、というような付加機能を考えてきた。最近のヒット作では2レイヤーの膜面(内側表面)にメーカーオリジナルの画像をプリントをしたものがあり、最新のエントラントDTでは膜面に凹凸ができるように突起印刷をしてドライタッチな感触を実現した。それによって風合いも改善されたという。

エントラントはそれを使った商品のターゲットに合わせて利用されるので、雨ガッパだけではないということもわかってきた。

ダーミザクスが正式名称を「エントラント/ダーミザクス」とされる理由もようやく理解できる。私がここ数年使用しているダーミザクスEVの前にMPとZRの新型2種が登場した。そして数値的にもかなりの性能向上を果たしている。

「色々選べるのでメーカーさんの自由度が大きいと思います」
ゴアテックスとはそのあたりが決定的にちがうようだ。


エントラントとダーミザクスの進化図は急激に個性化の時代に入ったようだ。結露低減性能を押し進めたダーミザクスZR、エントラントの快適性を合わせ持つダーミザクスMP、裏地を使わずにドライな感触を実現したエントラントDTが新登場

追加――目止めテープに関する質問

本筋からはずれるけれど、気になってどうしようもない疑問があった。防水透湿の雨具には縫い目にシームシーリングと呼ばれる目止めのテープが貼られているのだが、それについてのかなり大きな疑問があった。

私はランニングシューズ1足で年間約100日の山行のすべてをおこなっている。冬はそのメッシュの靴をアウターシェルと考えて、内側に防水ソックスをはいている。マイナス10度というような山では雪は溶けてこないので問題は少ないのだが、日帰りの雪の山では気温が0度以上、雪はほとんど水を含んだスポンジ状態ということが多い。靴下は常時水の中にあるのと同じなので、はき慣れたころからすこしずつしみてくるようになる。

そういう状態で疑うようになったのは、外側の布が常時濡れている場合には、当然、縫い目のところの布まで濡れは広がっているはずだ。縫い目を防水テープで隠しても、表布の内部を伝わってきた水分が縫い目で布の裏側とつながって、すこしずつだが、とめどなくしみこんでくるのではないかと疑うようになってきた。

春田さんに率直に聞いてみると、そういうことは基本的に排除できているという。裏地として薄いトリコット(タテ編み生地)を採用しているのだが、縫い目に目止めのテープを貼るときには、テープに熱を加えると溶剤が溶けてトリコット生地の目の中に進入し、膜面と直接つながって防水を完璧にするという。トリコットを裏地に使う理由のひとつに、その目止め効果が数えられているという。


前のページへ戻る  
  【第59回】岩戸山 「写真で見る山の歩きの魅力」
毎日が山歩きトップへ
TOP