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毎日が山歩き 案内人 伊藤幸司(糸の会・登山コーチングシステム)  50歳を過ぎてからでも楽に山歩き、愉しく山登り、のんびり山遊びが楽しめる毎日を紹介します。

物語 2008.3.27更新  

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【ブランド物語7】ダーミザクス(東レ)


エントラントとダーミザクスとゴアテックス

ゴアテックスといえばアメリカのゴア博士がベンチャービジネスとして成功し、防水透湿素材(一般には透湿防水と書かれるが、ここでは東レが最初に掲げたという防水透湿と記述したい。ちなみにモンベルのカタログにも防水透湿とある)の代名詞となったもの。だから、私も人に説明するときは「ゴアテックス雨具」などということが多い。最近では特許切れによっていろいろな製品が登場してくるので「ゴアテックス同等品」といういい方も多くなった。

しかしじつは、私はいま常用しているのはゴアテックスではない。レインウェアはラテラ(LATERRA)ブランドで「Dermizax EV」というラベルが貼られている。

近くの山道具屋にいったらバーゲンセールになっていた。「ダーミザクス」は知っていたから、ゴアテックス同等品という目で見て、シメタと感じながら買ったものだ。

もうひとつは防水靴下。ゴアテックスの布地を張り合わせた靴下も持ってはいるが、米国シールスキンズ社のものを常用している。伸びるので履き心地が圧倒的にいいからだ。

それからもうひとつ。1998年に私はロングスパッツを商品開発したことがある。そのときに東レのエントラントを8色のバリエーションで使用したのだが、ゴアテックスからはまったく相手にされなかった。
およそ25年にわたって防水透湿素材の開発にたずさわってきた春田勝さん。最近のエントラントはファッション素材としても注目されている

ご存じのように、ゴアテックスは各メーカーの製品に対する品質保証をしている。素材だけを販売するというようなかたちをとらないので、私などには使えなかったのだ。

さて、これだけの話の中に「エントラント」と「ダーミザクス」と「ゴアテックス」という名が出てきた。エントラントとダーミザクスを出している東レ株式会社に取材を申し入れた。

対応してくれたのはテキスタイル開発センターでエントラント/ダーミザクスの開発に当初からかかわってきたという春田勝さんだ。

まず「ダーミザクスもエントラント」なんだそうだ。……が、ここではわかりやすく分離しておいて説明したい。

1977年にアメリカのW.E.GORE社がゴアテックス(GORE-TEX)を世に送り出した。ポリテトラフロロエチレン(PTFE)という防水素材を強く引っ張ると小さな孔が無数にあくということは広く知られていたという。それを「防水透湿素材」として開発したのがゴアさんのお手柄だった。

その情報が東レの商品研究所にもたらされて、物性を調べたりしたときから春田さんは防水透湿素材にかかわることになった。

「ポリウレタンもある条件で微多孔膜になることはわかっていたのです」

ゴアテックスの基本特許にかからないポリウレタンによる防水透湿素材をエントラントという名で商品化したのは遅れること2年、1979年のことだった。


新製品のダーミザクスMPとエントラントDTのロゴマーク

エントラントの防水透湿機能の説明では、微多孔質の樹脂皮膜に0.1〜2.0μm(μは100万分の1。1μmは1,000分の1mm)の孔を無数に存在させると、雨粒の直径(100〜6,000μm)より小さく、水蒸気の直径(0.00044μm)より大きいので、水蒸気は通すけれど雨は通さない――となっている。

「しかし、それは説明の半分なんです」と春田さん。

孔が雨粒より小さくても、水は毛細管現象で入ってくるというのだ。孔と接した部分の水には表面張力が働いていて、入るのをいやがる方向に力が働いている。それを後ろから無理矢理に押し出そうとする力が「耐水圧」すなわち「防水性」だという。

その耐水圧は孔(孔径)が小さいほど有利だが、もうひとつ孔の内側での水の接触角(内壁の擦水性)が高いほど有利だということがわかっている。

じつはゴアテックスのPTFEはもともと疎水性が高かったために、耐水性に有利に働いていた。

しかしそれは親油性が高いということでもあって、第一世代のゴアテックスは汗に含まれる体脂で孔の内壁が汚れると耐水性が低下するという欠点をもっていた。

対してエントラントのポリウレタンは撥水剤を添加したり、撥水加工を加えたりして耐水圧を高める製造法をとってきた。

ゴアテックスもエントラントも微多孔膜である限り(雨粒より小さな孔であっても)防水性能を一定水準以上に高めることは難しいことから、ポリウレタンの「無孔膜」を重ね合わせることで欠点を補うという方法を開発してきた。東レのダーミザクスはそのポリウレタン無孔膜に特化した製品ということになる。


2種類の透湿性

100%の防水を求めるだけなら使い捨てのビニール製レインコートで十分だ。しかしそれでは汗で内部がビショビショに濡れてしまう。

防水透湿素材が登場する前にはポンチョがもっとも有効な登山用雨具とされた。ザックを背負ったままかぶると、雨は防ぐが、できるだけ風を取り入れて蒸れないように工夫されていた。防水をできるだけ完璧な状態に保ちながら、通風によって内部の蒸れを防ごうという考え方だ。

透湿性というのは通風とは関係なしに、水蒸気がどれほど通過できるかという性能のことだという。

内側(からだの側)が気温40度C、湿度90%という状態のとき、透湿膜の向こう側に吸湿剤を置いて、水蒸気がどれだけ透過する(出ていく)かを調べるのが JIS の透湿度試験法(L-1099)の「A-1法」と呼ばれるもの。軽い運動をして、最後に汗がにじむ程度の状況を想定しているという。一般的なレインコートや雨ガッパに求められる状況だ。

同じ透湿度試験法には「B-1法」というのもあって、30度Cの環境の中で、23度Cの水と接した透湿膜の向こう側に吸湿剤を置いて、液状の水が気化されて水蒸気となって透過する量を調べるという。

この「B-1法」は内側で結露が発生して透湿膜に水が付着している状態からの回復力を想定している。春田さんによると、東レでは外気温マイナス10度Cの環境下で300Wの運動(エアロバイクで立ち漕ぎ5分ぐらい)の強い運度をすると汗をかいて内部には結露が発生する。その状態での透湿能力を見るにはこの「B-1法」がいいという。冬の登山に対応する透湿性能がこれによって比較できるという。

1979年に東レが発売した「エントラント2000」の透湿度はA-1法で5,000〜6,000g(平米・24時間)であり、B-1法では8,000g(平米・24時間)であった。エントラントはその後さまざまな性能特化をくり返してバリエーションを増やしているが、強化撥水基布に防水透湿素材を直接コーティングした「マイクロポーラス・ポリウレタンコーティング」のエントラントWではA-1法で10,000g(平米・24時間)以上であり、B-1法でも10,000g(平米・24時間)以上となっている。

さらにそれに無孔質タイプの薄膜をラミネートしたエントラントHBではA-1法は6,000g(平米・24時間)以上と下がるが、B-1法では20,000g(平米・24時間)以上と内部結露に対して圧倒的な性能特化を実現している。


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