「mova」から「FOMA」へ
NTT DoCoMoに取材依頼の電話を掛けたのは、私自身の悩みを解決できないかという、個人的な事情があった。
私はドコモの携帯電話を持っているが、現在のところ日常的に活用することはなく、山へ出かける仕事のときに、タクシーを手配したり、下山後の入浴や食事の確定のために使うのでほぼ8割。あとは山でも下界でも、非常用通信手段というところにとどまっている。
なぜドコモかというと、最初に携帯電話を持ったとき、山ではドコモでなければ仕事にならないという状態だった。
現在では山頂で比べてみると、どのキャリアでも問題ないということが多い。しかし今でも、たぶん、四国の山に登ったら、ドコモが圧倒的に有利なはずだ。
ともかく高速道路が見えるような山ならほとんど問題ないし、眼下に市街地が見えているときは、歩きながら1m単位で電波状況をさぐっていけば通話できる可能性が高い。が、同時に、正面にすごくよく見えている街があるのに全然反応しないこともあり、電波状況がクルクルと変化して通話できそうでできない場合もある。
そのようなことが起きる原因をきちんと知りたいと思ったのが取材の第一の理由だが、それより大きな第二の理由が、わたしの機種がmovaだということ。そろそろ買い替えなければいけない時期なのだが、替えるとなればFOMAになってしまう。FOMAにして大丈夫なのだろうか? という疑問だった。
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| ■品質エリアマネージメントを担当する越野勝美さん 机に広げてあるのはFOMAの電波状況を示したエリアマップ。手にしているのは「基地局の電波は基本的に下を向いているため、山よりも平地のほうが品質としてはいい」という解説図 |
広報の南慎次郎さんを訪ねると、サービス品質部の品質AM担当課長・越野勝美さんと、主査の鈴木朋章さんが迎えてくれた。AMというのはエリア・マネージメントとのこと、まさに電波状況の地域管理の専門家だ。
高速パケット通信の能力を拡大したFOMAがサービスを開始したのは21世紀の最初の年、2001年の10月だった。そして2007年9月現在で日本全国に設置されたアンテナ(基地局)はmovaの20,800基に対して51,100基を数えているという。
すでにmova(800MHz)の機種はカタログの端にひっそりと残っているだけで、絶滅危惧種といっていい。それを私はまだ使っている。使っているけれど、山で、FOMA(2GHz)に負けるという印象は少ない。むしろFOMAに替えたら、ダメな山が増えるのではないかと心配している。
インターネット上には携帯電波のつかまえられる山頂名の一覧があったりするが、通話ができたというのは確定情報として、できなかったとかアンテナマークが1本立った、2本立った、3本立ったが通話はできなかったというのはあまり意味がない。
それと、たぶんアンテナ設置の進行が速かったからだろうが、山岳雑誌の携帯電波が届く・届かないという情報記事も、最近ではほとんど見ないという不満の声もインターネット上にあった。
要するに、通じる・通じないというのは保証できない情報なのだ。屋久島で集中豪雨に遭って下山路を変更したとき、遭難騒ぎになることを防ぐためになんとか連絡をとりたいと、携帯電話を手に持って、電波を探りながら下っていった。そうしたらある場所(結果的に私にはその1カ所しかなかったのだが)で電波が通じた。大きな街も見通せなければ、山また山で距離もかなりあったのだが、タクシー会社に通じて、宿への連絡も頼んだ。もう1本掛けたかったのだが、もうどうやっても通じなかった。あのときはmovaだから通じたと思ったものだ。
本当に必要なときに、通じるか、通じないかは能力として大きな差になる。山で危機管理のツールとして携帯電話を使う場合に、性能として何をどう評価すればいいのか、聞いておきたいと思ったのだ。
私は携帯電話がアナログからデジタルに変わったことで、通話距離が狭まったのではないかと思っている。アナログでは、出力を上げれば通話範囲が広がるけれど、デジタルではそのこところを一律に足切りされているのではないかという疑いだ。
「しかし」と品質AM担当課長の越野さんはいう。FOMAでも方法上の対処・工夫によって、アナログ時代に50kmを超えてフェリー船の航路からでも通じたとわれる、その最大通信可能範囲を確保しているという。
山ではどうだろう。たとえば丹沢の最高峰・蛭ヶ岳(1,673m)からだと約25km先に御殿場の街がよく見える。その半分あたりには東名高速が走っていて、丹沢湖もある。どこのアンテナに反応しているのか知らないが、山頂部にスイートスポットのようなものがあって、その地点に立てば通じる、それ以外だと不安定ということを、小屋のおじさんに教えられた。たまたまというのではなくて、確実にその地点だけは電波が届いている。
北海道のトムラウシ山(2,141m)の場合は、山頂で通じる。あとはトムラウシ温泉方面へ4時間ちかく下ったカムイ天上のすぐ手前、見晴のいい斜面に出たところで通話できる。山が深いので、アンテナへの見通しの問題だろう。
いろいろな経験から、直線距離で20km以内だったら、通じるかもしれないと思うようになっていた。
そのことを確かめたら、「山あいにおける電波の届く距離は周囲の状況によって変動するため一概には言えないが、概ね基地局から20km程度」という正式な回答を得ることができた。
しかし、そういう数値をそのまま常識的に飲み込んでも理解できない構造的な事情がある。基地局と呼ばれるアンテナの役割に関する問題だということを教えられたのだった。
それについては次の章でレポートするとして、私の最初の疑問「FOMAにしてもいいのか?」ということに関しては、山に関してはイエスともノーともいえないらしい。
どうしたらいいかというと、いま持っているmovaからFOMAの新機種に切り替えたとき、movaの古い機種をそのまま手元に残しておいて「デュアルネットワークサービス」を契約する。月々300円の料金で、必要なときにはmovaの機種に切り替えて通話できるという。FOMAで通じなかったら、movaに替えてみるという試みを残すことができるのだ。
ところがじつは、山間部ではFOMAもmovaの800MHzの電波を使ってエリアを構築しているという。基本的にmovaはFOMAに置き替えられるということだ。
