1994年1月20日
今から13年あまり前、1994年1月20日の新聞記事を調べてみると、新聞各社が一斉に伝えた見出しがある。
- 吸収して発熱する衣料素材開発 ミズノと東洋紡――朝日新聞
- 東洋紡とミズノが新保温素材を開発 湿気吸収時に発熱――読売新聞
- 保温効果が高い、新衣料素材を開発――ミズノと東洋紡――毎日新聞
- 冬のスポーツ用品、ハイテク商品続々“五輪景気”は望み薄――産経新聞
- 汗を利用した保温素材 ミズノと東洋紡――中日新聞/河北新報/北海道新聞/(共同通信社)
- 東洋紡、ミズノ、保温素材を共同開発。人体から出る水分の吸湿作用で発熱――日刊工業新聞
- ミズノと東洋紡、新タイプの人工保温素材を開発、人体の水分が熱源――化学工業日報
この冬のリレハンメル冬期オリンピックの公式ユニホームに採用されたことがニュースバリューの背景を支えたようだが、人体から出る水蒸気を吸収して、そのときに発生する吸着熱を利用するという初めての保温素材という点が注目された。
ふつうなら東洋紡が開発した新素材をスポーツ用品メーカーのミズノが採用したという筋書きなのだろうが、どうもそうではないらしい。日刊工業新聞のその日の記事の中には「東洋紡の吸放湿性の高い特殊機能繊維(アクリレート繊維)をスポーツ衣料向けに改良した」とある。
この時期の資料はあまりないようなので新聞記事を拾っていくことにするけれど、2003年6月3日付の読売新聞大阪版夕刊にはその「ブレスサーモ」の開発担当者・荻野毅さんが登場している。
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| ■ブレスサーモのアンダーウェア 男性用、女性用とも一般的なアンダーウェアのバリエーションはほぼ網羅され、かたちや色が用意されている。価格はシャツ、タイツともおよそ3,000円台 |
それによると発端は1993年の夏。東洋紡が「何かに使えませんか」と、吸湿性の高いピンク色の綿状の繊維を持ち込んできたという。1997年以来ブレスサーモの店頭宣伝でおこなわれているサンプルによる発熱実験のあの綿が持ち込まれたと想像していいようだ。
その原綿は水分を吸うと、たちまち4〜5度Cの発熱効果を発揮する。東洋紡がなんとか商品化したいと思っていた特殊機能繊維「N38」だった。それは高架橋アクリレート系繊維と分類される。
ところが問題があった。同記事には東洋紡側で動いた塩谷勉さんのコメントが掲載されているが「東洋紡としてはこの素材は衣料用として展開できないと考えていた」とある。
水が水蒸気になるときに大きな熱エネルギーを奪っていく。それが気化熱だ。湿ったアンダーウェアから水分をできる限り速やかに排出して、気化熱で体温を奪わせない機能はすでに十分に磨かれてきた。
しかし逆に水蒸気(気体)が水(液体)になるときには吸着熱という名の熱エネルギーが発生する。東洋紡の「N38」は繊維の基本構造にかかわる「高架橋」という構造によって、水蒸気の分子を取り込みやすくしたのだという。
新聞記事では荻野さんが次のように語っている。
「濃いピンク色の綿状の素材を手のひらに乗せて、試しに目の前にあった麦茶をかけると、パッと熱くなったんですよ。水の分子が素材の持つ水酸基に触れた時に吸着熱が出た訳です」
取り込んだ水蒸気が水になるときに発生する吸着熱が4〜5度Cになり、しかる後、水は従来繊維のようにウイックドライ(ローソクの芯と同じ毛細管現象による排水現象)で排除されるというのだ。これまでのウイックドライ繊維とちがって、繊維内でいったん水にすることで、吸着熱が残される。
しかし問題があった。中綿としてはすぐにでも使えるが、糸にできない、染めることもできないという難問がミズノ側に引き渡されたのだ。
結局、発熱量の少ないライトウェイトタイプでは「N38」を12%、発熱量を上げたミドルウェイトタイプでは15%混入することで、ミズノはブレスサーモを完成させた。発熱温度は約2度Cと低下したが、それによって糸に紡ぐことができるようになった。当初40%の混紡率としたヘビーウェイトタイプは現在は30%という。
「N38」はもともとピンク色をしていて染色できない。それは他の繊維との組み合わせの中に埋没させる方法で解決してきた。ブレスサーモはまさにミズノが実現したブランドなのだ。
その後、このタイプの吸湿発熱素材は各繊維メーカーでも開発され、さまざまな用品メーカーで製品化されてきたが、ミズノのブレスサーモが現在もなおトップの座を守り続けている。
