八ヶ岳のいま
最初に『日本百名山』から「八ヶ岳」についての深田久弥大先生のお言葉。
「阿弥陀岳、赤岳、横岳あたりが中枢で、いずれも2,800mを抜いている。2,800mという標高は、富士山と日本アルプス以外には、ここしかない。わが国では貴重な高さである。この高さがきびしい寒気を呼んで、アルピニストの冬季登山の道場となり、この高さが裸の岩稜地帯を生んで、高山植物の宝庫を作っている」
この文章が書かれた時代には、八ヶ岳という名は今よりはもっと神々しく響いていた。夜行日帰りで山頂稜線をめざす人々が列をなし、厳冬期によりきびしいルートを求める人々がいた。
いまもそういう登山者は多いに違いないが、その醍醐味の一端を初心者も存分に味わえるようになった。一般登山道に限っての話だが、赤岳周辺のポピュラーなルートは徹底的に整備されたといっていい。たとえば行者小屋から地蔵尾根で稜線に突き上げる最短ルートに関しては、クサリ場が整備されたのはもちろん、危険な個所にはハシゴが設置された。登山道が人工的になっている。
もうひとつ赤岳から阿弥陀岳への稜線を下りかけたところから行者小屋へと下る文三郎尾根は今や鋼鉄板の階段になっている。あそこは初心者にはちょっとつらい急坂だった。
それに山小屋も。山頂に赤岳頂上小屋があって、肩のところに赤岳天望荘がある。硫黄岳にはコマクサの保護に力を尽くしている硫黄岳山荘がある。
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| ■赤岳鉱泉から見上げる横岳 ― 1996.9.28 急峻な横岳西壁がそそりたっている。左端に見えるまろやかな突起は有名な大同心。赤岳鉱泉には大部屋のほかにベッドのある個室も用意されている |
JR中央本線・茅野駅側の登り口には行者小屋があるのだが、もうひとつ赤岳鉱泉があって、こちらは通年営業。改築された小屋は冬も暖房が効いて快適で、真冬にも初心者が入れるルートを開いてくれている。ヒマラヤトレッキングがヒマラヤを見る旅なら、真冬の八ヶ岳トレッキングも快適な1泊とともに満喫できる。
この赤岳鉱泉は年間の集客数では日本一ではないかといわれている。その経営的余裕が食事や部屋の質的向上に当てられているので、山小屋としては別格の存在であると初心者の皆さんには伝えておかないといけない。温泉宿というイメージでは泊まらないほうがいいけれど。
3,000m峰に一歩届かずに悔しい思いをしているにちがいない八ヶ岳だが、首都圏(あるいは中京圏)から1泊で山頂に立てる山としては日本有数の高山であるだけでなく、富士山と日本アルプスの全山を展望する中央の特等席というべき位置をしめている。
