|
大きいと考えた。一夜にして冬になったのだから、逃げるしかない。きた道を引き返して峰の茶屋跡を越えれば、3時間でロープウェイの山麓駅に着けるだろう。
女将の大金フサさんが、峠の越え方を教えてくれた。北風が谷を吹き上がってしだいに強くなっていくけれど、自然の風は息をつくから、それをよく観察して動くように……と。
宿を出ると、風がうなり、雪が舞っていた。避難小屋から先は裸の急斜面になる。風はまるで大砲が発射されるように風を吹き出してくる。
音の恐怖感のわりにおだやかだと感じていたのだが、最後の最後、峠の一歩下のところで動けなくなった。風に吹かれると飛ばされてしまいそうだ。ストックを2本とも短縮して束ねて両手でもって、しゃがんだときにピッケルのように体を支える。私は峠の真上に出て、風に耐えながら全員の通過を見守ったが、ほんの5mほど、クサリがほしかった。その後クサリが設置されて安全性は大きく飛躍した。
那須の峰の茶屋跡はまさにその冬の風が谷で圧縮されて吹き出すところ。風の名所なのだ。同様に二本松から上がる安達太良山も風の名所で、冬の風を味わいに出かけるのだが、大きく見れば日本海側から吹き抜ける冬将軍の先鋒の通り道になっているらしいのだ。その日、冬一番の吹き出しが地形によって圧縮されて放射されたということのようだった。
2005年11月8〜9日に同様の計画を立てた。沼ッ原から晩秋の森を楽しみながら三斗小屋宿跡を経て三斗小屋温泉に入ったが、宿に着く直前に雨になり、小雪がぱらついた。
その日もたまたま煙草屋だったので露天風呂で秋深い夜空を楽しんだ。
2日目、あたりには昨夜の雪がパラパラと残っていたが、天気は悪くなかったから、予定通り隠居倉への尾根道を登っていった。
隠居倉から茶臼岳を望み、目の前の朝日岳を見ていたが、その朝日岳の分岐に着いたそのときに濃いガスが周囲を包み、一瞬にして、吹雪に変わった。あわてて岩陰で雨具をつけると、猛烈な吹雪。風がどんどん強くなる。
そこからクサリ場となったけれど、そのクサリがありがたかった。飛ばされないためのクサリとして、とにかくゆっくりと前進できた。
風で体がふらついた人は何人もいたようだが、転んだ人はいなかった。クサリ場だったおかげで、突風に対して抵抗できた。
クサリ場は剣ヶ峰の東斜面で終わるのだが、北西風もパタッと消えた。嘘みたいに静かになった……が、私はそこで長い休憩をとって、身支度をし直した。
剣ヶ峰のトラバースが終わるとそこは峰の茶屋跡。避難小屋が見えているが、この日の風が、この谷を吹き上がるときに圧縮されてパワーアップしているとなると、避難小屋までのほんの数十歩が最大の難所となる。
きちんと一列になって歩き出した。が、さいわい風は特別のものではなかった。避難小屋に飛び込んでようやく人心地がついた。
三斗小屋温泉は11月下旬から12月上旬までで通常の営業は終える。峰の茶屋跡に強風が吹いていても、会津中街道は樹林の中。静かに冬景色に変わっていく。
|