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日本365名山
コラム

毎日が山歩き 案内人 伊藤幸司(糸の会・登山コーチングシステム)

日本365名山
【第6回】上高地スノーハイク 伊藤幸司(糸の会・登山コーチングシステム)
しまがれやま ( 縞枯山・2,403m )
ちゃうすやま ( 茶臼山・2,384m )
まるやま ( 丸山・2,330m )
なかやま ( 中山・2,496m )
冬の北八ヶ岳のすばらしさは、言葉を重ねて説明するよりは、新宿(あるいは名古屋)からの1泊2日のモデルルートを紹介するほうがわかりやすいだろう。
JR中央本線茅野駅からバスかタクシーでピラタス蓼科ロープウェイ(旧名はピラタス横岳ロープウェイ)へ。山頂駅から縞枯山〜茶臼岳を経て麦草ヒュッテ泊まりとする。2日目は白駒池経由で高見石に登り、中山を経て中山峠。黒百合ヒュッテで休憩して渋の湯へと下る。渋御殿湯でタクシーを呼んでおいて入浴、茅野駅から帰途につく。あるいはそれを逆回りにして、その場合は黒百合ヒュッテ泊まりとする。
身支度はスキーウェアでも十分可能で、小さな子どもの場合には長靴をはき、上から雪が入らないように袖カバー(事務用、園芸用。あるいはレッグウォーマーや長袖シャツから切り取った袖など)をスパッツ代わりにするといい。長靴の中はアンダーソックスをポリエステル100%のものにし、土踏まずに「貼るカイロ」のミニを貼る。パイル地の厚手の靴下を重ねれば下からの強烈な冷えはほとんど防げるはず。そして軽アイゼンを装着する。
手袋は濡らすおそれがあるので、十分に予備を持ち、耳覆いのある帽子に加えて、吹雪かれたときのためにマスクもあると安心だ。寒さ対策よりは冷たさ対策が重要だが、つらい思いをしたとしても、それが「いい思い出」になるのは点在する山小屋の存在による。山小屋に逃げ込んで、体勢を立て直してもう一つ先へというトライアル&エラーを体験できるインフラが、ほぼ十分にととのっているのが北八ヶ岳のこのルートだ。山小屋については【研究】欄で詳しく紹介したい。
真冬の標高2,400mはときにマイナス10度ということもあって本格的な「厳冬」だが、それを非常に高い確率で青空の下で体験できるという稀有な存在が北八ヶ岳なのだ。足りないものがあったとしても逃げ込める小屋がいくつもあり、逃げ出せる道もあるので、まずは歩いてみたほうが早い。なぜなら、ほとんどの道は樹林の中にあって、踏まれた雪道は夏に歩くよりよほど楽。北風もおとなしく、雪の白さと単純な冷たさがあるだけだ。
アプローチ
005〜2006年冬の茅野駅→ピラタスロープウェイ行きのバスは08:02→08:57、10:00→10:55、11:50→12:53、13:42→14:37、15:40→16:35となっている。茅野駅発10:00のバスに乗りたい。ちなみにピラタスロープウェイ→茅野駅は09:07→10:02、11:10→12:05、13:05→14:00、14:50→15:45、16:45→17:40とある。運賃は1,200円。タクシーを使うと約7,000円。
ほかの登山口へは冬期はバスを期待できないのでタクシーを当てにすることになるのだが、茅野駅からだとメルヘン広場が約8,000円、渋ノ湯が約6,500円。JR小海線松原湖駅から稲子湯へは約4,500円という見当。タクシー会社は茅野駅にアルピコタクシー(TEL 0266-71-1181/蓼科営業所 TEL 0266-67-2131)、第一交通茅野営業所(TEL 0266-72-4161)があって、どちらもジャンボタクシーを備えている。小海線松原湖駅からの場合は小海タクシー(TEL 0267-92-2133)となる。
ルートシミュレーション

この地図の範囲は国土地理院1:25,000地形図、長野12号-2(まつばらこ)、長野12号-4(たてしな)でカバーされる。
赤い○印は標高50mごとに置いた半径50mの円。青い◇印は山頂から約500mごとの水平距離。○印の間隔によって登山道のある斜面の傾斜を把握できる。
さらにこの地図の特長は、○印と◇印をどちらも1個(1ポイント)7.5分(2個で15分、8個で1時間)と仮定して、時間とエネルギーを概算できること。
【研究7】北八ヶ岳スノーハイク
八ヶ岳連峰の標高2,500mライン
 八ヶ岳というと標高2,899mの赤岳を盟主として、阿弥陀岳(2,805m)、権現岳(2,715m)、横岳(2,829m)、硫黄岳(2,742m)など堂々たる山岳を連ねているが、それはいわゆる「南八ヶ岳」のこと。冬には完全に雪氷の山となる。冬山登山のフィールドだ。硫黄岳から北へ下ったところにある夏沢峠が南八ヶ岳の北の境といわれている。
 夏沢峠の先は、根石岳(2,603m)、天狗岳(2,646m)、中山(2,496m)、丸山(2,330m)、茶臼山(2,384m)、縞枯山(2,403m)、横岳(北横岳・2,480m)、双子山(2,224m)と北に連なり、一番北にある蓼科山(2,530m)へと至る。これを一般に「北八ヶ岳」と呼んでいる。
 標高2,500mを越える山は日本ではほとんどが本州中央部にかたまっているのだが、その本州中央部ではその標高2,500mがおおよそ森林限界となっている。つまり山腹を登るにしたがって森林の生育環境が頭打ちとなり、矮小化したダケカンバやハイマツになり、すこぶる展望のいい斜面となる。そこから上は樹木のほとんどない岩稜となって、高山植物が岩にしがみつくように花を咲かせる。高山帯とよばれる世界だ。
 南八ヶ岳は山頂部稜線が完全に高山帯に突き出ているので冬にはそこが雪と氷の世界になり、雪崩も起きるし、滑落の危険も増大する。さらに北風が直接吹きつけて、人間の生存環境を奪ってしまう。
 それに対して北八ヶ岳はコメツガやオオシラビソなど常緑の針葉樹が稜線にまで達していて、じつはあまり展望がない。ときどき岩場に出ると、そこが北アルプス〜中央アルプス〜南アルプス〜(ところによって富士山)〜奥秩父連峰〜浅間山という360度の展望台となっている。しかし稜線のほとんどが樹林帯の中にあるので、 展望が得られるところはそう多くない。その代わり、北風がどれほど吹こうが、樹林帯の中に潜り込めば、そこには静かな道がのびている。
青空と白い雪、黒い森
 極端にいえば、北八ヶ岳は森の中にある。そして特筆すべきことだが、年中無休の山小屋が連なって、真冬のパラダイスを現出している。
 ちなみに私のシミュレーションマップによって営業している山小屋間の「距離」を紹介すると、ピラタス横岳ロープウェイ山頂駅→(2ポイント)→縞枯山荘→(19ポイント)→麦草ヒュッテ→(5ポイント)→青苔荘→(5ポイント)→高見石小屋→(17ポイント)→黒百合ヒュッテ→(13ポイント)→しらびそ小屋→(13ポイント)→本沢温泉という具合になる。とりあえず8ポイントを1時間とすると、長くても2時間程度の距離に営業している山小屋があるということになる。
 夏ならべつに驚かないが、冬に営業している山小屋としては標高約2,400mの黒百合ヒュッテは日本で一番高い場所になる。そして本沢温泉(標高約2,100m)も冬には日本一高い温泉宿となる。
 八ヶ岳が雪国の山ではないということも意外に知られていない。天候については【講座】のほうで詳しく書くので結論だけいえば、富士山が晴れている日には、八ヶ岳も晴れている……のだ。抜けるように青い空に汚れを知らない白い雪、そして北アルプスから吹いてくる冷たい風。冬にはどんよりと曇る雪国の山ではなく、八ヶ岳は太平洋岸に属する冬晴れの山なのだ。
 スキー場の延長にこんなすばらしい奥座敷があると宣伝できるのは、北八ヶ岳が山小屋の連なりによって他に類をみない安全なルートと空間を用意してくれていることによる。黒い森に守られて安全、しかも雪があるほうが風景もきれいなら、歩くのもうんと楽……というすばらしい世界が広がっている。
再び標高2,500m
 ちなみに、山小屋はピラタス蓼科ロープウェイ山頂駅からさらに北に登ってすぐのところに北横岳ヒュッテがあり、蓼科山の手前大河原峠には大河原ヒュッテがあって、冬も利用できる可能性がある。大河原ヒュッテは北に下ったところに別荘地(以前はスキー場も)があることから、冬も車で入れるということでレンタルスキー付き宿泊をお願いしたこともある。
 ほんとうは冬の北八ヶ岳を蓼科山から夏沢峠までとしたいのだが、北は蓼科山の山頂から将軍平へと下る斜面と、南は中山峠から天狗岳に登る斜面が、軽アイゼンとダブルストックでは危険と私は見積もっている。越えようとすれば越えられないわけではないが、ひとつ間違うと冬山での基本的な危険の「滑落」が起きる。滑落停止のためのピッケルと前爪のついた10本歯、12本歯などの本格的なアイゼンを持たない場合、万全とはいえない。
 じつはどちらも標高2,500mを越えて、樹林帯の上に突き出ている。「冬山登山」の領域なのだ。スノーハイクを「森林限界を超えない」という大原則で考えると、北の蓼科山と南の天狗岳、根石岳はどうしても除外せざるをえない。
 またピラタス蓼科ロープウェイ山頂駅から北には横岳と双子山があるけれど、これもここでは除外している。大雪のあとに大河原ヒュッテから歩き出したことがあるが、双子池から横岳への道はまだ誰にも踏まれていなかった。標識も雪に埋もれて時間のロスが大きく、林道へと逃げた。踏み跡がなければ、スノーハイクの難易度はぐんと高くなる。山小屋がルートに目配りしている地域という意味で、広くおすすめできるのは、ピラタス蓼科ロープウェイより南側、とした。
■蓼科山山頂直下の急斜面――2004.3.27
この斜面で転ぶと下まで止まらない。幸いなことに樹林にかかる手前で傾斜がいくぶんゆるやかになるのと、岩が雪に隠れているのが幸いした。ひとり滑落したが事故にはならなかった。
■中山峠から西天狗に登る急斜面――1997.2.23
ここで転んだからといってそのまま滑り出すとは限らない。しかし斜面状態は思わぬ変化を見せる。もし東側(写真右手)の崖に向かって滑り出した場合には致命的だ。樹木のない急な雪面では常に滑落停止の準備をしていなければいけない。このときは、登頂せずに引き返した。
黒百合ヒュッテ
いいわけじみた地域限定をしたけれど、じつは今回紹介する6つの山小屋(本沢温泉も含めて)をぜひ冬に体験して欲しい、というのがわかりやすい言い方かもしれない。
 まずは黒百合ヒュッテ(TEL 090-2533-0620/0266-72-3613)。宿泊数ナンバーワンの山小屋は北アルプスの穂高岳山荘か白馬山荘といわれるが、通年の宿泊数ということになると八ヶ岳のこの黒百合ヒュッテと赤岳鉱泉(南八ヶ岳)が浮上してくる。名物オヤジの米川さんの魅力が黒百合ヒュッテをここまでメジャーにしたということだが、とりたてて何がとはいえないが、受け皿としての大きさを感じさせる。日本の山小屋のスタンダードを体験するという意味で、おすすめだ。米川さんは大雪でも降ればすぐに登山道をラッセルするというような努力の人でもあったようだから、小屋番の人たちにも、きちんとした態度が感じられる。通年、いつ行っても泊まれる態勢になっていて、北八ヶ岳の中心軸となっている。
麦草ヒュッテと青苔荘
 2番目はなかなか難しい存在の麦草ヒュッテ(TEL 0266-67-2990/0266-78-2231)。私が最初に泊まったのは夏だった。家族でオートキャンプしながら八ヶ岳の取材をしていたときに集中豪雨にあって、雨の中でテントを張るのがめんどうで、メルヘン街道のバス停前の一軒宿に飛び込んだら、電気なし、屋根裏ふう大部屋あり、の山小屋だった。
 その後雑誌やテレビの取材で冬に訪れてみると、2代目の島立さんがここをテレマークスキーのメッカとすべく、かなりの量のスキーをレンタル用に並べていた。目の前のメルヘン街道を閉鎖ゲートのメルヘン広場まで約6kmゆっくりと下るのなら、生まれてはじめてという人にも雪と遊ぶ楽しさを味わってもらえるのではないかということで、以後「メルヘン街道大滑降」を冬の定番とするようになった。
 そこでいろいろな試みをしたけれど、1日目は新宿から特急あずさで茅野駅下車。ピラタス蓼科ロープウェイから縞枯山〜茶臼山を経て麦草ヒュッテ泊まり。2日目は午前中に白駒池や高見石、五辻などへスキーツアーもどきをやって、午後に大滑降という見当。荷物はスノーモビルで運んでもらえるので楽しく転ぶことができる(ちなみにつま先だけをスキーに固定するクロスカントリースキーやテレマークスキーでは、転んでも足を痛める事故はほとんど起きない)。
 山歩きの経験のないひとはメルヘン広場からそのまま雪の国道を歩いてくればいい。あるいはからだの都合などでそれすらもちょっと無理かもという人がいる場合には、スノーモビルの助け船を出してもらうこともできる。とにかく何でも相談できる気安さが麦草ヒュッテのいいところだ。
 完全凍結した白駒池のかたわらには青苔荘(TEL 090-1423-2725/0267-88-2082)があって、ここも冬期要予約ながら通年営業。静かな湖畔の宿という雰囲気は山小屋というより民宿に近い。数年前に麦草ヒュッテと共同で電気が引けた。この宿は小海線沿線の八千穂村に属しているので中央本線の茅野側に対していくぶん裏口という感じがする。八千穂高原スキー場のすこし上にメルヘン街道の冬期閉鎖ゲートがあるので、青苔荘のスノーモビルはそちらから上がってくる。
高見石小屋
 白駒池を見下ろす高見石にある高見石小屋(TEL 0467-87-0549)は、小さな子どもを連れて行く場合にはおすすめだ。……というのは、ランプの小屋という雰囲気をつくりながら、窓はていねいに作った二重窓で、1階のストーブの熱が2階の大部屋にうまく広がるなど、一種ぜいたくな山小屋になっている。それと、自信のない人は迎えに行きますという看板をかかげたりして、冬の山と縁の薄い人たちに積極的にアプローチしようという意識が強い。残念ながらオーナーの原田さんが体をこわして夢多き山小屋経営の現場から離れたので、今後大きな展開があるかどうかはわからないが、薪ストーブのやわらかな暖かさを味わえる落ち着きがこの小屋の一番好ましい点といえる。
縞枯山荘
 ピラタス蓼科ロープウェイの山頂駅を出て、純白の道をゆるやかに下っていくとすぐに見えてくる青い三角屋根の小屋が縞枯山荘(TEL 0266-67-5100)。ちょっと開けた白い谷間に絵のように建っている。向かいの斜面はテレマークスキーの練習ゲレンデだ。
 この山小屋は、行儀見習いに向いている。雪を溶かして得る水の貴重さとか、大部屋での立ち居振る舞いとか、だれかが注意されるから勉強になる。抜群のアプローチの良さからも、体験お泊まりには絶好だ。
 オーナーの嶋さんは東京から茅野に移ってこの山小屋を経営しはじめたというが、若い2代目ががんばっている。最近はどの山小屋も客扱いがルーズになっているので、「どこが山小屋なのか」ということを知りたい向きにはぜひこの山小屋をすすめたい。
 泊まるだけなら、タウンシューズのままポリ袋をはいてオーバーシューズとするだけで、ロープウェイ駅から小屋までたどりつける距離だ。ただ、そんなことをすると、山を甘く見てはいけないと、すごく怒られるかもしれない。私の運動靴はセーフだったが。
しらびそ小屋と本沢温泉
 千曲川に沿った小海線側の山小屋としてミドリ池のしらびそ小屋(TEL 0267-96-2165/090-4739-5255)がある。松原湖駅から車で稲子湯旅館(TEL 0267-93-2262)まで入る。タクシーはもう少し奥まで入ってくれると思うが、歩いてもすぐのところだ。このルートはかならずしも人が多いわけではないので、大雪の直後など、初心者にはルートのわかりにくい場所があるかもしれない。いずれにしても積雪期の宿泊は事前に予約(あるいは連絡)しておくのが前提だから、不安なときにはその旨話しておくと、適切なアドバイスがもらえるはず。
 しらびそ小屋はかならずしも良くない立地条件のところで、家族ぐるみでがんばってきた。その結果新しい別棟も建った。山小屋というより活気のある民宿というイメージが当たっているかもしれない。とくに食べ物での心づくしが暖かい。
 湯元本沢温泉(TEL 090-3140-7312/0266-72-3260)は秘湯中の秘湯として知られるが、とくに冬には「ほとんど山小屋」という雰囲気になる。それもそのはず、山小屋をいくつも経営する本沢温泉グループだ。山深い一軒宿の温泉の古い姿を味わうには絶好のターゲットとなっている。
 本沢温泉には車の道が通じてはいるのだが、夏でも本沢入口というところで車を降りてから2時間は歩かなければいけない。ここではしらびそ小屋の上部から林間を抜ける道をたどってトラバース気味に行くことをすすめたいのだが、トレースがない場合には、慎重に進まなければいけない。樹林の中では新雪が積もっても道の雰囲気は残るから、数分ずつの偵察をくり返しながら、尺取り虫の気分で前進していけば、たまたま道をはずしても猪突猛進に陥らない。しらびそ小屋から12ポイント(約1時間半)の距離だから、直前でやむなく引き返すとしても日没までに3時間の予定枠をとっておけば、致命的な失敗には陥らないはず。そういう探検的気分を味わえるという意味でもおすすめしたい。
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