おとなのたまり場 > ボンビバンおやじの歓び > ゆっくりと島巡り > 利尻島(2)
Bon vivant ボンビバンおやじの歓び
メニュー
毎日が山歩き はじめようおやじ流手料理 ゆっくりと島巡り もういちどカメラ もういちどオーディオ


ゆっくりと島巡り 案内人 船木文宏
利尻島(2) text: Fimiohiro Funaki
鴛泊港付近の海上から見る利尻島
鴛泊港付近の海上から見る利尻島
  利尻島と北海道は、いちばん近いところでも直線距離で約19キロ離れている。自転車なら2時間30分ほどというところか。ところがこの夏、この距離を泳いで渡った人たちがいたのだそうだ。Qさんによれば、
「それがなんと、千葉県の遠泳クラブのような団体の、50歳以上の中高年女性たちだったんです。しかも利尻の東海岸近くまで泳いできたんだけれど、まだ余力があるからって、そのまま礼文島に向かって泳いでいってしまったんですって」

 Qさんは新聞記事でその快挙(暴挙!?)を知ったのだという。Qさんの目は真面目そうに見えたが、北海道と利尻島の間は海流が複雑で速いから、無理じゃないか、と首を傾ける人もいる。その後確認はしていないので真偽のほどはわからない。最近の日本女性たちの逞しさを思えば、あっても不思議ではない話だが……。
  さて、利尻島といえば真っ先に思い浮かぶのは、利尻山。以前は利尻岳ともいわれたが、現在の正式名称は利尻山。海抜1,721メートル、通称「利尻富士」。北海道名菓「白い恋人」のパッケージを飾っているのがこの山だ。“富士”をつけて呼ばれる山は全国各地に多いが、利尻山は山容だけからいえば、それほど富士山には似ていない。山頂部はゴツコツと荒々しく、見る場所によっては、2つ頂上があるように見えるのだ。ご存じ深田久弥の「日本百名山」はこの利尻山から始まるが、その冒頭には「利尻富士と呼ばれる整った形よりも、むしろ鋭い岩のそそり立つ形」とある。
そして、残念なことに山頂までの全体を見るのは極めて難しい。8月末に訪れたこの時も、逆さ富士が写るはずのオタトマリ沼や姫沼の対岸から眺めたが、中腹あたりから上は厚い雲に覆われてまったく見えなかった。姫沼で諦めきれずにしばらく見つめていると、やっと雲が少し動き、その切れ目から三角の山頂らしきものが現れた。やったとばかりに快哉を叫ぶと、さも気の毒そうな顔して島の人にいわれた。
「あれはさ、頂上じゃないの、手前の頂で本当の頂上はあの左側にあって、もっと高いんだよ」
利尻山の写真看板
利尻山の写真看板。山が見えないので、この看板を背に記念写真を撮る気の毒な人もいる
オタトマリ沼の美しい風景
オタトマリ沼の美しい風景。本来なら対岸に利尻山が見えるのだが

  実は利尻山がその美しい全容を見せてくれるのは、1年でもほんのわずかのことだそうだ。05年も5月から8月末までの観光シーズン最盛期に見えたのは数回だったという。あの凛々しい姿を自分の目で見るにはよほどの幸運に恵まれなければならないのである。せっかく遠路はるばる難民船に乗ってやって来たのに(バックナンバー「礼文島(1)」参照)、頂上までの姿が見られないのは、あまりに申し訳ないとでも思ったのだろうか、心やさしい島人は完璧な姿で写された利尻山の“美しい写真”を看板に仕立ててくれている。本欄に掲載した写真は仙法志岬のものだが、ここまで来て、大きな写真をつくづくと眺め、本当に見えたらきれいだろうなあ、と自虐的な喜びにひたるのも得がたい体験というもの。まっこと、泣く子と自然には勝てないのであります!! この夏の短い旅では残念ながら山に登る時間はなかったが、いつか必ず登るぞ、と心に誓った。

  利尻山が利尻富士と呼ばれるのは、中腹から下の稜線が海にまっすぐに落ちていく姿からかもしれない。島から離れて海から見ると、まるで山がいきなり海水を滴らせながら海上に浮かび上がってきたように見える。深田久弥は「島全体が一つの頂点に引きしぼられて天に向かって」と形容する。私なら、ロングドレスの貴婦人が海に舞い降りたような姿といいたい。そして海面にふわりと浮かんだその裳裾を道が円く走り、集落が散在するのだ。

オタトマリ沼の散策路で見かけた美しい蝶
オタトマリ沼の散策路で見かけた美しい蝶

オタトマリ沼の案内看板
例によってオタトマリ沼にも親切な案内看板があった
  仙法志岬から右手に穏やかな海を見ながらバスで10分ほど行くと、時計の文字盤でいえば4時半あたりのところにオタトマリ沼がある。およそ15分ほどで湖畔を一周できる散策路を歩くことにした。Qさんが、
「この島には、蛇などの爬虫類がいませんし熊もいませんから、安心して歩いてくださいね。本当にこの島は安全なんです」
と、笑顔でいう。これは本当の話。ドドマツ、アカエゾマツの林に囲まれた細い道を鏡のような湖水を見ながら歩く。これ以上はないという新鮮な空気を吸いながらの絶好の森林浴だ。ここで美しい蝶を見かけた。あいにくQさんがそばにいなくて、蝶の名も花の名もわからない。植物や生物をよく知り、見ればただちにその名をいえる人が本当の知識人なのだと思う。写真をご覧になっておわかりになった方は教えてください。
それにしても、この沼の対岸に利尻山がくっきりと見えたらどんなに美しいだろうと、売店でコーヒーを飲みながら未練がましく思った。

「利尻島(1)」 「利尻島(3)」
日本全国の島の自然と生活を、土地に住んでおられる人のレポートに、当サイトスタッフの取材も交えて、毎月2回程度の更新でお伝えしていきたいと思っています。島案内人をご希望の方は、応募ボタンをクリックして、専用フォームからお申し込みください
ゆっくりと島巡り|トップへ戻る  
TOPへ