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ゆっくりと島巡り 案内人 船木文宏
礼文島(2) text :Fumihiro Funaki
 前回、稚内港から礼文島香深港までのフェリーに乗っていると、カモメが乗客の手から餌をもらおうと寄ってきた、と書いたら、写真から判断してこれはカモメではなく、ウミネコの間違いではないか、というmailをいただいた。実は、カモメとウミネコの区別はとても難しい。小さな事典の説明ではよくわからないのである。
礼文島に着いてから、島で生まれ育ったというベテランバスガイドのSさんが、こう教えてくれた。
「専門家でもなけりゃ、カモメとウミネコの違いは見ただけではわからないさ。いちばんいい方法はね、嘴と足の色を見ること。白っぽい色がカモメ、赤っぽい色がウミネコなの」
ところが、前回の写真は早朝7時ごろ、太陽を背にして飛んできたのを逆光で撮ったものだから、色味が明確ではない。なんとなく白っぽいのでカモメと書いたのだが、尾羽に黒い帯らしきものがあるので、ウミネコだったかもしれない。山形県鶴岡市のNさん、ご指摘ありがとうございました。


礼文島の東側(北海道側)海岸の岩に集まる アザラシたち
 ついでにSさんから聞いた話をもう一つ。島は風の強い日が多い。そんな時に家の中から風の方向と強さを知るにはウミネコやカモメが役に立つという。彼らが岸壁や路肩で羽を休めているの見て、同じ方向を向いて並んでいれば、その方向からかなり強い風が吹いている。バラバラの方向を向いて散らばっていれば、風はほとんどないか弱い。風はその日の昆布とりやウニ漁に大きな影響を与えるから、島人にとっては鳥たちは風を教えてくれる大事な存在でもあるのだ。
 Sさんの話をついでにもう一つ。礼文島では夏でもクーラーを使う家は一軒もない。網戸をつけた窓や玄関を開けておけば、天然の涼風がさわやかに家を吹き抜けるから、人工的な冷気など必要ないのだ。しかしそれでも、暑い日はある。地球温暖化のせいか近年しだいに暑い日が増えてきた。クーラーはいらないが扇風機ぐらいは欲しくなることもあるという。人気の上がった扇風機は当然のことながら値段も上がる。東京などの大都市では驚くほど安い扇風機が出回っているが、さすがに礼文島までは届かない。運送料もかかるし、数も出ないから高い値段がついてしまうのだろう。東京の平均価格の約3倍はする。Sさんは「今度遊びにくるとき、扇風機をお土産にもってきたら、大歓迎されるよ、間違いなく」といって期待のこもった目で笑った。でもこれからの季節は喜ばれないね、きっと。
 香深港と島の最北端、スコトン岬を往復するバスに乗って右手の海を何気なく見ていると、やがて小さなボールのようなものが浮いたり沈んだりしているのが見えてきた。それも一つだけではない。よく見るとあちこちに2つ3つ、また4つ5つ、いくつかのグループになっているようだ。これがなんと、アザラシの頭だった。最近アザラシはかなり近くまでくることがあるらしいが、香深に近いところまでくるのは珍しいそうだ。温暖化など気候の変化や、天敵との関係、餌の量などが影響しているのだろう。しかし群れて遊んでいる彼らの姿をみていると、実に平和で地球環境の悪化の深刻さなど忘れてしまいそうになる。

最北端のスコトン岬はクワガタにたとえると、左角の先端。人の住む島としては日本最北の地だが、稚内岬の方が緯度が高いので、慎み深い礼文の人々はスコトン岬を最北端とはいわず“最北限”といって、日本最北限のトイレ、最北限の売店などという具合に使うのだ。この岬の前方に見えるライオンが腹ばいになったような姿の島が海驢(トド)島。明治期までトドが棲息していたことによる命名だが、今はまったくいない。代わりにアザラシが集まる。天気のいいときには遥か遠くにサハリン(樺太)が見える。ロシアとの国境線はすぐ先だ。眼下に広がる大海原を越えて北方を見つめていると、自然の雄大さと人間世界の小ささを得心させられる。

礼文島最北端の岬、スコトン岬。前方約1.2km に見える島は海驢(トド)島。明治中ごろまでは ここにトドが生息していたそうだが、今はいない。


澄海(すかい)岬の案内図。島の地図もあり花の説明も親切だ。この付近は礼文島の花として有名なレブンアツモリソウの群生地があり観光客注目のポイント。
 スコトン岬を西海岸沿いに下りてくると、ゴロタ岬、澄海(すかい)岬という二つの岬がある。断崖絶壁と穏やかな美しい海面が鮮やかな対照をみせ、つい見ほれてしまうが、強風の時は海も荒れて恐ろしい様相に一変するのだろう。冬の厳寒期に白い歯をむき出した青黒い大波が岩肌に襲い掛かるのが見えるようだ。


澄海岬付近の海。やや明るい紺青の海面は透明度が高く美しいが、強風に曝される冬の厳しさはどんなだろうか、と心配になる
 この二つの岬のほぼ中間地点に、礼文島を代表する「レブンアツモリソウ」(北海道指定の天然記念物)の群生地がある。このふっくらとしたクリーム色の愛らしい花は、かつては島のいたるところで見られたが、今はこの地域に群生する約3万本だけになってしまった。
礼文島の人口は約3,433人(平成17年5月31日現在)。このうち香深漁協の組合員数は268人。良質な昆布、ウニを中心とする海の幸豊かな島だが、漁業従事者は減っている。一方観光の島としては、シーズン最盛期は満員電車もかくやという混雑ぶりで発展の勢いは止まらない。静かな花の島にあこがれて移住した人も、困惑するほどの人気だ。
  第1回 礼文島(1)はこちら

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