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ゆっくりと島巡り 案内人 船木文宏
八丈島(2) 2006年4月5日更新 text&photo Fumihiro Funaki
昼食もまた、嬉しい人との出会い
島寿司
八丈島といえば島寿司。魚はズケ、ワサビではなくカラシを使う
「おやじ流手料理」<マダイ> 島鮨
  「一度信じたら、徹底的に信ずる」、古今東西それが人付き合いの王道というものだ。教育から政治、経済まで、今日の社会の混沌はすべて人を信じないことに起因する。もっともつい最近、誰からみても怪しげな情報とやらを信じて墓穴を掘った政治家がいるが、彼は例外中の例外。あれは情報提供人を信じた結果ではない。受け取った材料の材質を吟味することなく、それを料理することによって、自分が得るであろう成果のみを信じたことによる失敗なのである。私は人生の王道を行くものとして、今回の旅はタクシードライバーの佐藤さんを信じて、すべてを任せることにした。成功、疑いなし、である。
岩のり
焼酎のツマミに最適、滋養豊かで歯ざわりがいい

 すし割烹「みつ橋」の昼食は、期待した通り、いやそれ以上だった。岩のりをつまみに飲んだ、みつ橋オリジナルのイモ・麦ブレンド5年もの焼酎も、メインディッシュの島寿司も、実によかった。海原遠く東京を離れてやってきた喜びを実感できる、爽やかにして濃厚、さらりとしてコクのある重層的な味であった。しかし、その味を一層引き立てたのが、ご主人の人柄だ。島について何の知識もない初めての訪問者が尋ねることに、やや恥じらいを含んだ笑みを浮かべて、必要最小限の言葉で答える。食べ物飲み物の質問には適切にこちらの希望を汲み取り、それ以外の質問には言葉少なく決して結論を押し付けることがない。実に過不足のない対応である。
「ご主人はずっと八丈島ですか?」
連れが、あまり個人的なことは聞くもんじゃない、といわんばかりの目つきで脇腹を突く。
「いえ、私は八丈の人間じゃないんです。おかみさんが、妻ですが、八丈の生まれ育ちでして。今はおりませんが、夜は店に出ますので…」
「ああ、そうなんですか。するとご主人はどこで奥様と?」
連れの脇腹突きが激しさを増す。
「ええ、妻は高校が千葉でして。私は千葉の生まれ育ちで、そこで知り合ったんです」
「ああそうでしたか。海を越えた愛が実ったってわけですね。ご主人もなかなか…」
連れはついに声を出した。
「もう、失礼なことを次から次にいいまして、本当に。申し訳ございません」
「いえ、別に隠すことでもありませんから」
「そうですよね。いいお話じゃないの。こちらの若い人はやっぱり島を出たがるんでしょうねえ」
「ええ、そういう人が多いようです」
「あの、今夜は空いてますか? 奥様にもお目にかかりたいし、ホテルで食事するよりもこちらで、ぜひ一杯やりたいんですが」
「はい、ありがとうございます。同じお席を用意しておきます。5時過ぎでしたら何時でもかまいません。お待ちしております」
夜の食事はこうして決まった。何事もなりゆきのまま。人を信ずればすべて事はうまく運ぶのである。連れは夜もまたこの調子かと心配そうだったが。

タケノコメバルの煮付け
大里地区の「ふるさと村」と「馬路散策道路」の標識
  「そうですか。気に入っていただいてよかった。ここの女将さんは、島でも有名な方なんですよ。今夜はいろいろお話されるといいです」
と、佐藤さん。まだ陽は高い。佐藤さんにもう少し付き合ってもらうことにした。大里に向かう。八丈島のメインストリートから南西方向に下って行くのだが、この道は後に触れる「八丈島歴史民俗資料館」の裏手から「ふるさと村」に通じている、島でももっとも古い道で昔は「馬路(うまじ)」と呼ばれていた。今は一部が「馬路散策道路」と名づけられ、道路標識にもそう書かれている。
玉石垣2
見事な玉石垣

 大里は独特の美しい石積みの垣根「玉石垣」で知られる。これは有名だ。八丈島に関係のある映画やテレビなら、必ずここがメイン画像のひとつとして登場する。石は丸みを帯びた、というよりも、土に埋もれている奥行き方向があまり見えないので、正面から見ると球かと思われるほど丸いものが多い。これらの石は主に、近くの八重根漁港から南の前崎浦、横間ヶ浦にかけての海岸から運ばれた。ここの海岸で長年荒波に洗われて丸くなったのである。運び手の多くは流人たちであった。
玉石垣の積み方は「六法積み」といわれる方法で積まれている。
「どれか一つの石に手を当ててみてください。すると、どの石にあててもその石を六個の石が囲んでいるのがわかりますでしょう、それで六法積みというらしいです」と佐藤さんが教えてくれた。なるほど。玉石垣は島のあちこちにあるのだが、この大里地区がいちばん美しい形で保存されているのだそうだ。


玉石浜から見る八丈小島6
この波に洗われて「玉石」が生まれる。沖に見えるのは八丈小島

ふるさと村家屋1
修復公開されている民家。左はトイレ

 ふるさと村には、島の昔の住居が修復されて保存、公開されている。湿気の多い南の島で快適に住むための工夫が凝らされた、茅葺き、高倉の工法は「オリクネ」と呼ばれる伝統的技術だそうだ。便所や牛小屋もある。
「ここにアジサイが植えてあるんですが、この葉を切り落としてこの日陰になったところに置いておくんです。これ何に使うかわかりますか?」
と佐藤さんが真面目な顔でいう。なんだろうかと考えていると、
「トイレットペーパーなんです。枯らしてはだめなんですが、こうして根元の日の当たらないところに置くと、ちょうどいい柔らかさになって、しかも破れにくいんだそうです」


ふるさと村から見上げる空
南国情緒あふれる「ふるさと村」の庭から青い空を見上げる
  なるほど、これは生活の知恵だ。しかも、アジサイだ。風雅ではないか。この村にいると、周りに植えられた南国の木々の印象も加わって、何か遠い昔の異国に迷い込んだような不思議な気持ちがしてくる。連れとぼんやり物思いに耽っていると、
「さあ、八丈富士に行きましょうか」
という佐藤さんの声で我に返った。


すし割烹 みつ橋 
〒100-1401 東京都八丈島八丈町大賀郷2351-2 電話:04996-2-3884

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