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| 遣唐使船はこんな形だったと想像される |

「柏崎から魚津ヶ崎(ぎょうがさき)までの海岸をみると、入り組んだ入江があって、自然が巧まずして用意した良港という感じがするね、ここに遣唐使船が最後に立ち寄って、給水したり、不足のものを整えたり、あるいは良風を待った、というのは納得できる。ここがあんまり美しいので、もう唐なんかに行きたくなくなった、なんて人もいたんじゃないだろうか、ハハ、ハ」
「それにしても、遣唐使船が150人も乗れるほどの大型船で、しかも1回の航海が3、4船で構成されていたなんて、ほんと知らなかった」
「ここで人員を補給したってこともあるかもしれないなあ。遣唐使船は帆船だけど、風がないときは船員が漕いだっていうから」
「船を漕ぐには専門の人が必要よね、学者や政治家なんて人種は昔もきっと体力がないでしょうから。でもそんなこと学校で習ったかしら…私が忘れちゃったのかしら」
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| 美しい魚津ヶ崎の海岸。じっと見つめていると、想像図のような遣唐使船が右から左にゆっくりと進むのが見えるようだ…… |
「いや、私も教えられた記憶がないなあ。受験校育ちだからね、私は。年代と事物の名称はたくさん暗記させられたが、遣唐使でいえば、船の大きさや乗り組み員の数だとか、そんなことはまったく…」
「だから、勉強がつまらなくなるのよね。もっと生々しくその当時が分かるような教え方をしなくちゃダメよね、歴史は」
「うん。ほら友だちのS君だけれど、彼は教科書がつまらないんで司馬遼太郎の歴史小説のようなものをしきりに読んでいた。だから戦国時代以降については、人の名前や年代だけじゃなくて、事件の展開や背景の世相なんか実に細かなことまで知っていた。それが事実かどうかは別にして」
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| 五島市の中心部、旧福江市街へ向かう |
こんな話をしていると、原塚さんが、
「その先は今夜話しませんか、みんなで。川口社長も商工会議所の方も来られますから」
と、いう。そうだ、今夜は何人か集まって夕食会をすることになっていた。そして荒尾船長の奥様が嵯峨ノ島からウニをもってきてくれるのであった。
「また、ウニのこといって、しつこいですよ」
「荒尾さんの奥さんはともかく、ウニは大丈夫だと思いますよ。ね、荒尾さん」
と、原塚さんも念を押してくれる。
「大丈夫です、さっき電話で確認しておいたから。もっともカミさんはどうしても今夜は来られないけどね」
「それは残念だなあ。でも、ウニだけでも十分ありがたい」
「では、そろそろ戻りましょうか。途中でご覧になりたいところがあれば、適当に止めますからおっしゃってください」
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| 初日と3日目に泊ったホテル「ダウンタウン」 |
車は一路五島市の中心部へと向かった。途中の中華店で、荒尾さんおすすめのチャンポンを食べた。30数年前に長崎で食べて以来の本格的チャンポンである。これが船長のおすすめに恥じない、いい味であった。そうそう、五島市は長崎県五島市ですから、ね。
荒尾船長、原塚氏といったん別れ、午後3時に一昨日と同じビジネスホテル「ダウンタウン」にチェックイン。夕食会は6時半からなので、一休みすることにした。なにしろ今朝は5時に起きて、6時から東シナ海の荒海に漕ぎ出し、大瀬崎の灯台を見上げ、それからグルリと島の西海岸を回ったのだ。それほど長時間というわけではないが、さすがにちょいと疲れた。
風呂に入って一眠りしようと思ったが、10分ほどウトウトすると、もう元気を回復した。こうなるとじっとしていられない性分である。迷惑そうな顔をしている連れ合いを誘って散歩に出た。このあたりの道筋はだいぶ頭に入っていたので、メインストリートから福江城の方向にぶらぶらと歩いて行った。するとほどなく、数人の小学生とすれ違った。そういえばここから福江小学校は近い。このとき、ふとある考えが浮かび、ゆっくりと子供たちの進む方向に戻り、声をかけてみた。
「あのね、みんな福江小学校の生徒? おじさんたちは怪しい人じゃないから安心してね。東京から遊びにきたの」
東京だと、こう声を掛けるとほとんどの子供が、キッとにらんで、声を出さずに行ってしまう。見知らぬ人に声を掛けられたら、絶対に返事をしてはいけない、すぐに立ち去るように、と先生からも親からもいわれているのだ。それで五島ではどうかを試してみたかったのである。
「怪しい人だなんて思わないけど、なぁ〜に?」
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| 市のメインストリート |
と、明るい人懐っこい目でいっせいにこちらを見る。
「あのね、この辺に本屋さんがないかと思って。みんな知らない?」
「本屋さん? あっ知ってる、この先の角を右に曲がって行くとあるよ、すぐに」
みんなで指さしたり、そうだそうだと声をかけてくれる。
「いや、そこの本屋さんは知ってるの。別な本屋さん、知らない?」
「違う本屋さん? う〜んと、ああそうだ。あそこも本屋さんだよね」
「うん、本屋さんだよ、あそこも。この先の角を左に曲がってずっと行くとね、右側にあるよ」
と、親切に教えてくれる。
「あれっ、あっちの方に本屋さんなんてあるの?」
「あるよ〜。ほんとにあるから。行ってみてよ」
という。教えてくれた方向には書店はなさそうだが、まあ散歩のついでなので、なくても仕方がない。子供たちにお礼をいって、指差した方向に向かって歩いた。
「いい子たちねえ。人を疑わないってほんとに素晴らしい。都会だとこうはいかないわよね。みんなオトナが悪いんだと思うわ」
と、連れ合いはしきりに感心している。ほどなく、右手に書店らしきものが見えた。子供たちは間違っていなかった。ただし、そこは最近出来たマンガ、ビデオの貸し出しと販売の専門店で、いわゆる本屋ではなかった。子供の目には本屋に見えたのであろう。
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