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大瀬山付近の道端に咲く黄色い花。
キンポウゲか? |
宿に戻る途中、道の両側に黄色い花があちこちに咲いているのが、薄暗くなっても鮮やかに見えた。何という花なのだろうか、とご主人に聞くと、
「えっ? ああ、あの花。ただの花だろう、名前は知らないなあ」
と、面食らったように答える。魚以外にはあまり興味がなさそうだ。こういう人って、好きである。連れの顔を見ると、同じ思いのようであった。自信はないが、キンポウゲではないかと思うのだが、誰に聞いてもはっきりしなかったのが今でも気になっている。
宿では女将さんが、笑顔で迎えてくれた。
「お父さんのお陰で、素晴らしい景色が見られました。お父さんのご親切に感謝します。やさしい方ですね」
「さあ、それはどうでしょうかねえ。嫁いできたころは、漁が忙しくて、私もずいぶん手伝いましたんですよ。子供背中に背負ってね。このあたりの漁師の奥さんはみんなそうでしたから」
「ああ、そうでしょうね。漁師でも農家でも、女性はほんとによく働きますよね。その点、都会の女性は…」
「あら、比べる必要はないんじゃない?」
「そうですよ、比べることはないです。働く人は働くし、嫌な人は頼まれたって働かないんですから。それから少しずつ漁が減ってきたころに、私がこの民宿を始めましてね。でも主人はほとんど何にも民宿のことは手伝ってくれませんでしたよ」
「はあ、そうですか」
「夏のシーズンで忙しい時なんかは、もうそれは大変で。でも、主人は何もしてくれない」
「はあ……」
どうも、今夜は女将さんの機嫌が悪いのだろうか。話している顔には笑みが浮かんでいるのだが。もっとも女性の腹は何年暮らしてもわからないものである。ご主人は食堂の奥の部屋で新聞を読みながら食事をしているのが、仕切りのガラス戸から、チラッと見える。女将さんの声は十分聞こえているはずだが、何もいわない。

「ところで、女将さん、明朝は船をお願いできますか? そこに貼ってある案内書きを見ますと、何人か揃わないとダメなようですが、私たち以外にお客はあるんでしょうか?」
「お客は明日はいないでしょうね。さあどうしようかしら、ねえ?」
と、奥に声を掛ける。ご主人が何事ごともなかったような顔で出てきた。
「なんだ、予約してあるわけじゃなかったんだね。それなら、私が自分の船で案内したかったなあ。海のあちこち、刺し網や養殖のところも、灯台も、それに島山島の鹿も見せたかったし。実は明日の朝はちょっと別な用事があって、ダメなんだ、私。それじゃさ、仲間に聞いてみるよ。えっ? ああ、予算もちゃんと聞くから大丈夫だ」
と、いってすぐに電話に向かった。
「あのさ、大鳥丸ってのが、朝6時に来てくれることになった。みんな説明しといたから安心していいよ。じゃあ、私はこれで」
これだけいってご主人はすぐ奥の部屋に戻った。私たちはそれからしばらく、女将さんの話を聞いて、9時には部屋に戻った。
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