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なるほど、ここで鐙が切れたので「鐙瀬」というわけだ。さて、後ろを振り向くとこの海岸に溶岩を流した張本人の「鬼岳」が特異な姿の全容を見せている。この福江島のシンボルともいわれている火山(現在は活動がない)は、海抜315m。読み方は「おにだけ」だが、少し古い宮本常一氏の著書などには「おんだけ」とルビが振られていることもある。滞在中は誰もが「おにだけ」と発音していた。
特異な姿といったのは、私の第一印象だ。実は2週間ほど前に、埼玉県秩父市で録音をしていた時に目にした、武甲山(1336mから1304mになり、現在は1295mに)を思い出したのである。その山はセメントの材料として山肌から石灰岩が採掘され、頂上から途中までがそぎ落とされて薄くなってしまっている。その気の毒な頂上部が下部の台形状の上に乗った山容は、実に異様としかいいようのない無残な姿であった。
鬼岳は山の途中から上に木が1本もなく芝生で覆われている。ちょっと見ると抹茶入りソフトクリームのような格好をしている。これは何かを採掘したためなのではないかと一瞬、武甲山から連想してしまったのである。事前に調べてこないとこういう間違った印象をもってしまうのだが、鬼岳は実は世界的にも類例の少ない貴重な火山である。
簡単にいうとアスピーテという楯状火山の上に、数万年前の火山活動によって、ホマーテという臼状火山が形成されたもので、これをシンダーコーンというのだそうだ(観光協会発行の資料による)。山体は浸食が進まず、芝生に覆われているのはそのせいだ。その姿が自然のものだと知ると、初め異様に見えたものが次第に美しい姿に見えてくるから不思議だ。かく、人間の心理、審美眼などというものはいいかげんなものなのである。南国性植物の林の向うに見える鬼岳、どうです、美しいでしょう?
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| 1995(平成7)年にオープンした「鐙瀬ビジターセンター」。五島列島のことがいろいろと勉強できる |
1995(平成7)年、この地に「鐙瀬ビジターセンター」が完成した。館内では五島列島の自然と生活が、音と映像とパネルでわかりやすく紹介されている。入館料は無料で、開館は午前9時。普段は17時までだが、7、8月は18時まで。文字通り、島の訪問者には得がたい情報が豊富に提供されている。たとえば、椿(つばき)といえば、関東地域の人は伊豆大島が特産、と自動的に頭に浮かぶが、実は五島はそれに並ぶ大特産地なのだ。したがって良質な椿油も五島の名物で、島内のあちこちで売られている。香料や色素などが一切使用されていない純天然100%不乾性油で、食用から肌や家具の手入れ用まで幅広く使える。2010年には「椿博覧会」も企画されている、そんなことを私は初めて知ったのである。
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