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ゆっくりと島巡り 案内人 船木文宏

五島列島 福江島(2)  text & photo Fumihiro Funaki 2006年7月19日更新

鐙瀬溶岩海岸で自然の偉大さに感動、ビジターセンターで五島のお勉強

五島到着初日から堂崎教会の勉強をして、研究熱心なところをアピールした!? 何しろ五島は川口社長を中心にして人の輪が広がりそうだから、楽しみなのだ。楽しみを現実にするには、関係者にいいところを見せなくてはならない。どうです、いい根性でしょう? つい気合が入り過ぎて、堂崎教会の受付のおばさんに、
「内部は撮影厳禁なんて残念ですね。美しいステンドグラスも紹介したいし、いろいろな説明資料も写してじっくり勉強したい。ここの写真を悪用する人なんているでしょうか? そういう人はそもそもここに来ませんでしょう。どう思われますか?」
と、きつい言葉をぶつけてしまった。しかしおばさんもさる者、
「私にいわれても困ります。今日は司教さんがおられませんから、今度伺っておきましょう」
と、軽くいなされてしまった。反省。諦めて移動することにしたが、教会の敷地のすぐそばまで海が迫っているように見える。砂地が露出しているが、今は干潮でこうなのだろうか、満潮になればここまで海水が満ちるのだろうか? 原塚さんに聞くと、
「ええ、満潮になればここまで海水がきます。浅いですけどね」
なるほど、潮が満ちればまるで川か池のように見える、こんな狭くなったところまでが海なのだ。これが五島列島の島の特徴である。海水や川、風による浸食、陸地の沈降、海底の隆起、火山活動など、さまざまな原因で複雑に入り組んだ海岸線ができている。
「じゃあ、次は福江港の方に戻って、鬼岳、火の岳の麓を回る海岸線を通って南東端の鐙瀬(あぶんぜ)海岸に行きましょう。溶岩がゴツゴツと固まった海岸です」
と原塚さんにいわれて車に乗り込んだ。運転は中村さんだ。今日は原塚さんは運転をしないようだ。彼は東京の大学を出て、アパレル関係の仕事を十数年して島に戻ったという。その経験を生かして島では川口さんたちとも協力して、観光事業を中心に仕事を組み立てようとしている。期待しよう。ボンビバンもこれを機会に、島をよく勉強して協力関係を結びたいと思う。


堂崎教会すぐそばの潮が引いた海(左)、潮が満ちると少し先でみた景色(右)のようにに変わるのだろう。狭く入り組んだ地形の海は、湖か大河を見るようで実に美しい

運転の中村さんと、案内人の原塚さん

車窓から景色を見ながら矢継ぎ早に質問をする。原塚さんは帰島後間がなく、中村さんは本土の長崎から嫁いできた方なので、迷惑な質問があったかもしれない。鐙瀬につくまでに得た情報では、福江島ではタバコ栽培がかなり行なわれている。国の農業政策によるものらしい。そいうえば、長崎県の離島では壱岐島もタバコ栽培が盛んだ。しかし世界的な嫌煙禁煙運動の普及で、将来性が心配だ。牛の飼料栽培の畑も目に付く。五島といえば、前回も話題にしたとおり全国的に「魚」と思われているが、実は「五島牛」も自慢の産物なのである。滞在中にぜひ肉も食べて欲しい、と二人に強く勧められた。
「とっても美味しいですよ。何しろ、ここの子牛が本土の○○に行って、そこのブランド牛になってるぐらいですから」
と、原口さんがいう。間違ってはいけないので、確認するまでは伏字にしておくが…!!


鬼岳から流れ出した溶岩が海岸で固まった、鐙瀬溶岩海岸。南国ムードに満ちて眺望絶佳

30分ほどで鐙瀬の海岸に着いた。シュロやヤシなどが目につき南国ムードが漂う。このあたりは対馬暖流のおかげで年中温暖で霜がおりることもなく、南方系の植物が繁茂し花が咲く美しい地域だ。海岸に向かって降りて行くと、黒い岩がたった今ゴロゴロと海面に転がり落ちてきたかのように見える。約200万年前に鬼岳から流れ出した溶岩が海に流れ込んで固まり、約7キロも続く複雑な海岸線を形作っているのだ。海の色は濃黒褐色のゴツゴツした岩石と対照的に、南国めいた青緑色でゆったりと穏やかに広がり、潮を含んだ空気がうまい。展望台からは東に貝ノ瀬鼻、崎山鼻の岬と臼岳(125.2m)と箕岳(144m)が海に浮かぶように張り出し、西には島針瀬、さらにそのずっと向うに富江地区から続く長崎鼻、笠山崎の岬が見え、さらに南の海上には左から右に赤島、大板部島、黄島、黒島という島々が浮かぶ。見飽きることがない素晴らしい眺望だ。


岩場でひじきを採る漁師夫婦

ふと視線を足もとの海岸に移すと、小さな漁船が岩そばに停まり、岩の上では漁師夫婦が一心に作業をしている。このあたりではウニを採る漁師もいるが、これは岩海苔かひじきを採っているらしい。無機的な色彩の荒くれた岩に、互いを気遣いながら働いている夫婦の姿に心温まる思いがした。

ところで、この美しい海岸はなぜ「鐙瀬」という難しい名で呼ばれているのだろうか。五島市観光課発行の「五島市ガイドブック」にはこう記されている。

永正4年(1507年)、16代領主囲(かこい)公が、妹婿玉浦納の反逆にあい、辰の口城を攻められました。囲公はうまく馬で逃げられましたが、この地で鐙(あぶみ)が切れ、陸路 の逃避はこれまでと断念、漁舟で黒島に落ちのびました。しかし反逆党は黒島に迫り、 とうとう公は自害しました。


独特の美しい姿をした、五島のシンボル「鬼岳」

なるほど、ここで鐙が切れたので「鐙瀬」というわけだ。さて、後ろを振り向くとこの海岸に溶岩を流した張本人の「鬼岳」が特異な姿の全容を見せている。この福江島のシンボルともいわれている火山(現在は活動がない)は、海抜315m。読み方は「おにだけ」だが、少し古い宮本常一氏の著書などには「おんだけ」とルビが振られていることもある。滞在中は誰もが「おにだけ」と発音していた。
特異な姿といったのは、私の第一印象だ。実は2週間ほど前に、埼玉県秩父市で録音をしていた時に目にした、武甲山(1336mから1304mになり、現在は1295mに)を思い出したのである。その山はセメントの材料として山肌から石灰岩が採掘され、頂上から途中までがそぎ落とされて薄くなってしまっている。その気の毒な頂上部が下部の台形状の上に乗った山容は、実に異様としかいいようのない無残な姿であった。 鬼岳は山の途中から上に木が1本もなく芝生で覆われている。ちょっと見ると抹茶入りソフトクリームのような格好をしている。これは何かを採掘したためなのではないかと一瞬、武甲山から連想してしまったのである。事前に調べてこないとこういう間違った印象をもってしまうのだが、鬼岳は実は世界的にも類例の少ない貴重な火山である。
簡単にいうとアスピーテという楯状火山の上に、数万年前の火山活動によって、ホマーテという臼状火山が形成されたもので、これをシンダーコーンというのだそうだ(観光協会発行の資料による)。山体は浸食が進まず、芝生に覆われているのはそのせいだ。その姿が自然のものだと知ると、初め異様に見えたものが次第に美しい姿に見えてくるから不思議だ。かく、人間の心理、審美眼などというものはいいかげんなものなのである。南国性植物の林の向うに見える鬼岳、どうです、美しいでしょう?

1995(平成7)年にオープンした「鐙瀬ビジターセンター」。五島列島のことがいろいろと勉強できる

1995(平成7)年、この地に「鐙瀬ビジターセンター」が完成した。館内では五島列島の自然と生活が、音と映像とパネルでわかりやすく紹介されている。入館料は無料で、開館は午前9時。普段は17時までだが、7、8月は18時まで。文字通り、島の訪問者には得がたい情報が豊富に提供されている。たとえば、椿(つばき)といえば、関東地域の人は伊豆大島が特産、と自動的に頭に浮かぶが、実は五島はそれに並ぶ大特産地なのだ。したがって良質な椿油も五島の名物で、島内のあちこちで売られている。香料や色素などが一切使用されていない純天然100%不乾性油で、食用から肌や家具の手入れ用まで幅広く使える。2010年には「椿博覧会」も企画されている、そんなことを私は初めて知ったのである。


五島列島に生息する蝶の見事な展示もある  
センター内ではこのように、模型やパネル、
映像を使ってわかりやすく説明されている

さて、今回はここまで。次回は初日の夕食から始まる。はたして五島の魚は本当にうまかったのか、そして翌日は待望の五島灘クルーズだ!!

■五島市については:五島市ウェブ

■鐙瀬ビジターセンター: 福江空港から車で10分、福江港から車で20分。
  TEL&FAX:0959-73-6955
五島列島 福江島マップ
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