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| 犬の門蓋付近の断崖と打ち寄せる波 |
奄美諸島はどの島も美しい景観に恵まれているが、その中から特に選ばれた10ヵ所を「奄美十景」と呼んでいる。徳之島では前ページの「ムシロ瀬」と、後ほど紹介する「犬田布岬」があげられている。他の8ヵ所は、奄美大島の「あやまる岬」「龍郷湾」「大浜海浜公園」「焼内湾」「大島海峡」、鬼界島の「百之台」、沖永良部島の「田皆岬」、与論島の「百合ヶ浜」である。
奄美十景に数えられている「ムシロ瀬」と「犬田布岬」は、島の西海岸の南北に約20キロほど離れて位置している。しかし、そのほぼ真ん中あたりにある「犬の門蓋(いんのじょうふた)」も忘れるわけにはいかない景観スポットだ。東シナ海に面して1キロほど続く隆起サンゴ礁の断崖と、複雑な形をした岩が織りなす景観の美しさは、奄美十景に漏れたのが不思議なほどである。
ところで、下膨れの洋ナシのような形をした徳之島は、現在3つの町で構成されている。ふっくらした南部が伊仙町、そしてその上部をほぼ南北の線で2等分し、左の東シナ海に面している側が天城町、右の太平洋に面している側が徳之島町である。そして、徳之島を代表する美しい海岸「ムシロ瀬」と「犬の門蓋」は天城町の北端と中央に、「犬田布岬」は伊仙町の北西端にあり、この3名所は徳之島の西海岸に北から南へほぼ等間隔に並んでいるのだ。
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| 崖の上に建てられた観音像と荒れた海の対比が美しい |
天城町の中央にある「犬の門蓋」は、ずっと昔、飢饉に襲われたときに人や家畜を襲う野犬を、ここの断崖から投げ捨てたという逸話から名づけられた。断崖は東シナ海の荒波に鋭く浸蝕されているが、ちょうどこの日は風が強く、大きな波が長年このように激しく打ち寄せたら、崖はこうなるだろうと、まるでシミュレーションしてくれているようであった。
島に住む人でなければ南国のこういう荒れた景色にはなかなかお目にかかれない。そう思って自らを慰めたものの、空が真っ青に晴れ上がっていたら、この崖と海が見せてくれるはずの、鮮やかな色彩の大パノラマが、抑えても抑えても脳裏に浮かんできた。晴れていれば、大海原のはるか南には隣の沖永良部島を肉眼で見ることもできるという。
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| 崖の突端部。この下に有名な「メガネ岩」がある |
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| 見事に丸く浸蝕された2つの孔がメガネのフレームのようになっている |
崖の上部は柔らかい芝生に覆われていて目にやさしい。前方の海は暗い灰色で、海面は強い風に吹かれて波頭が細かく崩れ、白くささくれだっている。しかし波は、海岸の崖に近づくと、ぐっと力をためるようにして大きく膨らみ、勢いをつけて激しく崖に襲い掛かる。膨らんだ時の波は、瑠璃色から深い青緑色まで、多彩な色合いを見せて妖しいばかりに美しい。北の海にはないその色彩の豊かさに見入っていると、今にも雨が降り出しそうな曇天であることを忘れてしまいそうになる。
奇岩の代表はなんといっても「メガネ岩」と呼ばれる、浸蝕孔が2つ大きく開いてメガネのような姿をしている岩だろう。崖から緩やかな斜面を下り、足もとに注意しながら海の方に進むと、メガネの縁のように黒っぽい岩が見えてくる。そしてそのレンズのない孔からは、青緑に逆巻き白く崩れる波が、大海原から映画の一場面のように切り取られて見えている。
波が穏やかな日は、この孔の向うの岩場に出て、美しい海になお近づくことができるという。ツレアイの目を盗んで少しだけ孔から出て見ると、波の美しさには思わず陶然として見惚れてしまった。押しては返す美しい波が、もっとこっちへ来いと誘っているような気がしてくる。しかし濡れた岩場は危ないので、あまり先には行かれない。ツレアイの心配顔も頭に浮かんでくる。次回は何としても晴れた日に来るぞ、と海に誓って引き返した。
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| メガネ岩の孔から見えた、美しい波の色彩に感動 |
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