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ゆっくりと島巡り 案内人 船木文宏

奄美大島(7)2006年12月6日 text&photo Fumihiro Funaki
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大瀬海岸から、あやまる岬へ

奄美大島でも屈指の美しい海岸

ゆうべは少し呑み過ぎたかなと思ったが、今朝の目覚めの爽快さはそんな危惧を瞬時に追い払った。いつもよりやや遅く5時ごろに起きだして、カーテンをそっと開けてみると、中庭の向うに南国の大きな海がゆったりと広がっている。安心した。夢ではなかった。たしかに自分は今、奄美大島にいるのだ。ジューシーなタンカンの甘い香りが口中を満たすように、幸福感がじんわりと腹の底から湧き上がってくる。

「ねえ、ゆうべ踊ったのがよかったのかね、とってもいい気分だ」
「そうかもね、こっちが恥ずかしくなるぐらい乗っていたようですから…」
「まずかった?」
「いいえ、何でも思いどおりにするのがあなたの流儀でしょ、心配ご無用」
「少し調子に乗りすぎたかもしれない。でも、南の島の良さだよね、とにかく楽しく呑んで明るく踊って一日を終わる。それが長寿の秘訣だなあ、きっと。さあ、朝食前に散歩しよう、天気はいいよ〜」


ホテル正面玄関前、左手に延びる道。両側はサトウキビ畑だ

少し疲れ気味の連れ合いを説得して、散歩に出かけた。ホテルの正面玄関を出て、左方向に延びる畑の中を進む道を歩くことにした。地図もよく見ていないし、誰にも聞いていないので、どこに続いているのかまったくわからないが気にしない。ずっと先は空港のはずだし、一本道だから迷う心配はない。
毎朝、約7.5キロを1時間で歩く、スポーツウォーキングを日課にしているので、少し速度を落として40分も歩けば4キロぐらいは先に行けるだろう。

道路脇に咲くハイビスカス
鳥獣保護区の標識

道の両側は、所どころ刈り取られているが、サトウキビ畑だ。畑の奥に立派なソテツが見えるが、これは自生しているのか、植えたものなのかはわからない。道端にハイビスカスも咲いている。いかにも南国の島らしい、散歩に最適な道だ。しばらく進むと、白い看板が目にとまった。
「大瀬海岸鳥獣保護区区域図」とあり、このあたり一帯の地図が描かれ、「この区域は、鳥獣の捕獲が禁止されております。鳥獣の保護に、ご協力をお願いします」とある。鹿児島県のお触書であった。この説明図で、今歩いている道が、大瀬海岸脇のサイクリングロードであることがわかった。どこかで左に曲がれば、すぐに海岸に出る。少し先には「宇宿漁港」があるらしい。空港はさらにその向うのようだ。


「サイクリングロードにしては、誰もいないねえ」
「サイクリングするのは土地の人じゃなくて観光客でしょうから、シーズンオフの今は走る人がいないんじゃない。でも、本当に気持ちのいい道ねえ。あら、あそこの畑で農作業をしている方が見える」

サトウキビ畑で作業をする老夫婦

近づいてみると、サトウキビの刈り入れをしている一組の老夫婦であった。話し掛けたいと思ったが、早朝から黙々と働く二人の姿からは、どこか旅人の無駄話を拒絶しているような雰囲気がただよってくる気がして、そっと眺めるだけにした。あのように歳をとってから二人で作業をするのは、仲が良くて微笑ましくみえるが、実際にはかなりの重労働で大変だろう。若い世代がどんどん島を離れていくので、ますますこのような老夫婦が増えていくに違いない。

さらに歩いて行くと、道が二股に分かれ、海に通じる左手の道に面して、建築中の家があった。


建築中の別荘?
「別荘かしらね?」
「この時期、この場所で、と考えると別荘か、島外からの移住者の家だろうね」
「ガイドの上原さんがいう、年中温暖、風光明媚、果物美味、ハブ付きっていうやつね」
「ハハ、ハ。まあハブはともかく、このあたりは住むにはいいねえ。ホテル前の海が、左方向(北側)は土盛(ともり)海岸で、今歩いている右方向(南側)の大瀬海岸に続く。そして、土盛海岸の先が今日これから行くあやまる岬でしょう。一年中サンゴ礁の海と白い砂浜に向き合って暮らせるんだから。でも、ハブより台風が心配だな」
「それはもう慣れているから土地の人に対策を教えていただけば大丈夫よ。こういうところでのんびり暮らす老後なんて、今は想像もできないけど、きっと素敵でしょうね」
「僕はいいが、君は友だちが多いから、こんな遠くには移住できないでしょう?」
「さあ、それはやってみないとわからないわね」

とりとめのない話をしているうちに、30分を過ぎたので左に曲がって海岸に出ることにした。

おお、…、ああ…。

そこは見事な白い砂浜で、ちょうど引き潮だったのだろう、リーフの内側は干上がりかかった湖のように、あちこちが水溜りになっている。そして南側には漁港の防波堤があり、そのずっと先には奄美空港の塔がボンヤリと見える。リーフの外は青い大海原。言葉を失うような美しい光景が広がっていた。しかし、誰もいない季節はずれ(3月下旬)の海岸は、ただひたすらに美しいのではなく、時に寂寥感を漂わせ、人を孤独に導くこともある。


「そういえば昔、九十九里の海岸に行ったねえ。あの時も季節はずれで、誰もいなかった。あんまり話もせずずっと黙って海を見ていた…」


大瀬海岸の白い砂浜。漁港の防波堤のずっと向うに奄美空港がかすかに見える

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