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ゆっくりと島巡り 案内人 船木文宏

奄美大島(5)(2006年7月19日) text&photo Fumihiro Funaki

国内第2位の広さを誇るマングローブ原生林でカヌーを初体験

バスは古仁屋港から国道58号線を戻って、この日の第2スポット、住用町のマングローブ原生林へと向かった。山道に差し掛かって左手下に再び歌手・元ちとせの生まれ故郷が見える。ここの地名を前回は書き忘れたが、「嘉徳(かとく)」という。元ちとせは昨年1月に女児を出産後、初の本格的ツアーを「春のかたみ」と題して、5月14日の宮城県民会館からスタート、高松、鹿児島、新潟、札幌、福岡、大阪、広島、名古屋と回り、6月24日に東京中野サンプラザでファイナルを打ち上げ、無事全国10ヵ所11回のツアーを終えた(中野サンプラザのみ2回公演)。7月6日の中日スポーツはファイナル公演の様子をこう伝えている。

「2,200人のファンが集まった中、ママになった元は“(ここ数年で)いろんな経験をしました。いろんな人に支えられ、いまここに立っています。私に恩返しできることは歌うこと。松任谷由実さんみたいに、34枚のアルバムを目指してずっと歌っていきたい”とあいさつした。
ママになっても、裸足(はだし)の歌唱スタイルは健在。“百年に一人”といわれる個性あふれる歌声も、いっそう神秘さを増して絶好調。ヒット曲の『ワダツミの木』や新曲『青のレクイエム』など21曲を熱く披露して、ファンを魅了した。(安崎和司)」

マングローブ館正面入り口

沖縄の西表島に次ぐ日本第2のスケールを誇る奄美のマングローブ原生林は、住用(すみよう)川と役勝(やくがち)川が合流するデルタ地帯の汽水域にあり、面積はおよそ71万平方キロに及ぶ。乗車率15%のわが大型バスの窓の左右に広がる島の美しい景色に見ほれてうっとりしていると、ガイドの上原さんが、
「皆さん、朝から船に乗ってお腹がすいたでしょうね。間もなくマングローブパークに着きますよ。マングローブ館のレストランで昼食をして一休みしてください。その後は、カヌーに乗っていただきます。幸い雨も大丈夫そうですから、ぜひ楽しんでくださいね」
という。どうやら、5組10人は全員カヌーが初体験で、少し不安がある。そんな雰囲気を察したのか上原さんが続ける。
「ライフジャケットを着用しますから、ひっくり返っても水死の恐れはありません。親切なインストラクターのお兄さんが指導してくれますから、素直な気持ちで教えられた通りにすれば何の心配もありませんよ」
幼稚園児に話しかけるような“上原調”にはもうみんなすっかり慣れたので、思わず笑いが車内に広がった。


ごく普通のお弁当だが、内容は実に新鮮で豪華。味も抜群

何はともあれ昼食である。腹が空いては戦は出来ぬ、というわけでレストランのテーブルに着くと、思わず“おお、これはなんと見事な”と叫びたくなるような弁当が置かれていた。お刺身、春雨のサラダ、野菜と豚肉の煮物、天ぷら、もずく、ゴマを振りかけたご飯に、お吸い物というバランスのとれた組み合わせ。しかも、特に島風ではなく、ごく普通の食材でまとめられている。やや薄めの味付けもうれしい。どのツアーでも、何度かある食事はその土地の素材と味付けのものが中心となるが、その間にこのようにごく普通の食事に出会うのもなかなかいいものだ。長期間の海外旅行でおいしい日本料理に出会ったような気分になる。


マングローブパーク全体の案内図

マングローブ館は、マルチスクリーン室、研修室、展示・資料室、道の駅休憩室、レストランなどで構成されている。このマングローブ館を含むマングローブパークの施設は、「鹿児島県が平成12年度に整備したものに、住用村(現・住用町)が奄美群島振興開発事業補助金と特定地域における、若者定住促進等緊急プロジェクトの指定を受け、平成9〜12年度に整備したものです」と説明書にある。なるほど、島を知り大いに楽しみ、若者にはぜひ島から出ないでね、というメッセージを発信するパークなのだ。神妙な気持ちで食後の腹ごなしをかねて展示室を覗いた。奄美名物の「リュキュウアカショウビン」「アマミノクロウサギ」の剥製や、「リュウキュウムラサキ」を含む蝶の標本、民具などが展示されている。

マングローブ館から園内をゆっくり右へ歩くと、ほどなくカヌーの発着所がある。ここでライフジャケットをつけたり、指導員の説明を受ける

後でまたゆっくり見ることにして、何はともあれ、メインイベント「カヌー体験」である。よく整備された園内を右手に進むと、ほどなくカヌー発着所に着く。ここで、ライフジャケットを着用する。曇っているので雨が降るかも知れない、というわけで、念のためウィンドブレーカーのようなものも着た。お互いに見合うと全員着膨れて笑い出したくなるような無様さである。
カヌーは二人乗り用と一人乗り用がある。初心者はぜひ操艇しやすい一人乗りを選んでください、と指導員のお兄さんがいう。4組の夫婦と添乗員の菅谷さんは素直に一人乗り艇を選び、パドルを受け取ってスタート位置に進んだ。私はカミさんが肋骨に少し痛みがあるので、二人艇を選んだ。Kさんの奥さんが、
「あら、経験者だったの?」
と、疑うような視線でいう。
「いえいえ、ちょっと事情がありまして」
「あらまあ、仲のよろしいことで」
詳しく説明する間もないので、とにかく指導員の待つスタート地点に行く。カミさんは前に座る。グラグラ揺れて足もとが頼りないが、何とか無事に着席。指導員の説明で簡単な練習が始まった。私はもともと若いときからボートを漕ぐのは得意だったし、昔は免許なしでモーターボートにも乗れたから、十和田湖や榛名湖でたっぷり乗り回したこともあり、事故を起こしたことなんかない。カヌーは野田知佑さんの本は何冊も読んだ。頭の中でパドリングのイメージはできている。“心配するな妻よ、恐れるでない。私を信じよ、さらば救われん。決してチン(沈没)はしない”と心の中で呪文を唱えて、ゆるり、そろりと漕ぎ出した。


静かな水面とマングローブ。そして、カヌーが浮かぶ

カヌーは実に楽しかった。指導員のお兄さんも、これが最近の日本の若者だろうかと、疑いたくなるように人柄がいい。物言いは丁寧で明瞭、指導は懇切適切親切の3切揃い踏み。私たちのグループで最年長と思われる女性は、コースの半分ほどをほとんど個人レッスンのように手厚い指導を受け、すっかり感心してしまった。
「私、運動は苦手で、神経も鈍くなってるでしょう。それでカヌーに乗るのは本当はイヤだったんですけど、主人に相談したら、怖くてイヤならやめる、少しでも乗ってみたいなら勇気を出して乗る。それしかいってくれないもんですから、おそるおそる乗ったんですけど、指導がほんと〜に親切で、すっかり勇気が出てきて、もっと乗っていたくなったぐらいなの」
と、息を弾ませていう。添乗員の菅谷さんを含めてグループ10台のカヌーを引率しながら、指導員のお兄さんは、他の人が慣れてくると、出遅れた彼女の後先を、まるで母親が歩き始めたての赤ん坊を手とり足とりしながら連れ歩くように、声を掛けながら指導する。
「そうです。いいですよ。少し右を漕いでください。はい、もう少し強く。ゆっくりで大丈夫ですよ。そうそう。だいぶ慣れましたからもう心配いりませんよ。まっすぐ進むように右左の力を揃えましょうね。ぶつかっても心配ありませんからね。安心して漕いでください、はい、そうです。ずいぶんうまくなりましたよ」
という具合である。もちろん特別料金を払ったわけではない。決まった料金のなかでの自然なサービスなのだ。あくまでも決められた職員の仕事としてこなしている。同じグループのメンバーでも、私のように好き勝手にしたいものはそのように扱い、乱暴な人には注意を怠らず、そして彼女のようなタイプには、それにふさわしい接し方をするのだ。こういう青年ばかりなら、日本の未来は明るいのだが、さてどうだろうか。

ここは日本第2のスケールを誇るマングローブ原生林だ。汽水域で生き延びるため、オヒルギやメヒルギの根はこんな具合に進化(?)した

小一時間のカヌー体験を終え、5組10人はさすがに少し疲れたが、それぞれなりの満足感でいっぱいであった。菅谷さんが、
「どんなに運動が嫌いな方も水が苦手な方も、ここで体験すると病み付きになるそうですよ。実は私もその一人なんですけど」
という。私たち10人も、すくなくても私は、ちょっとそんな気になった。そうだ、東京に帰ったら、ボンビバンの隣部屋の案内人にして、この「島巡り」にも登場してもらっている堀田貴之さんに相談してみよう。彼は、カヌー、カヤックでは有数の腕前と経験の持ち主である。そんな高揚した気分で、今夜の宿泊地、奄美空港の少し北、笠利(かさり)町のリゾートホテル「コーラルパームス(Coral Palms)」に向かった。


老いも若きも楽しくパドリング。指導員(黄色のウィンドブレーカー)の説明はわかりやすく、人柄の良さは抜群。彼の指導なら誰もがカヌーファンになりそう
奄美大島マップ
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