西ドイツ最大の家電メーカーであったサバ(SABA)の重役、ハンス・ゲオルグ・ブルーナシュワー(Hans Georg Brunner-Schwer)は、サバ電気の中にレーベルを設けてアルバムを積極的にリリースしていた。自らアマチュア・ピアニストであり、熱心なジャズ愛好家で、自宅リヴィングにはスタインウェイのピアノが置かれ、プライベート・スタジオまでもつというオーディオ・マニアでもあった。彼は1968年にサバ電気がゼネラル・エレクトリックに吸収されると、自らサバ・レコードを買い取り、同地にMPSレコードを新設した。
1961年頃からオスカー・ピーターソンと親交をもち、また、ドイツにやって来たジャズ・ミュージシャンを招いてはこつこつと録音を行なっていた。ピアニストでありプロデューサーであり、レコーディング・エンジニアでもあった彼は、自分で気に入ったピアニストを探し、説得し、プロデュースし、自らレコーディングをした。そういった訳でピアニストのアルバムが多いMPS、ピアノの録音にかけてはそうとう力を注いでいたようだ。オスカー・ピーターソンが彼の録音したテープを聴いて、自分のピアノの音がこんなに美しく録音されたのを今まで聴いたことがない、と語ったというエピソードもある。そういった熱意のこもったアルバム製作が、当時の録音のレベルをはるかに越える、ヨーロッパ随一の“音がいい”レーベルとして評価されるようになった。
本作はドイツ出身のピアニスト、「時計のライス」の愛称で知られるディーター・ライス(Dieter Reith,1938-)の代表作。ペーター・ウィッテ(Peter
Witte/ベース、生没不詳)、チャーリー・アントリーニ(Charly Antolini/ドラムス,1937-)とのトリオ。1966年8月23日と24日、フィリンゲンにて録音。
いかにもヨーロッパらしい、正確無比でパワフルなドラム、クールでモダンなセンスのベースライン、破綻のない極めて知的でリリカルなピアノ。それにプラス、ファンキーな表情を覗かせるアレンジが、タイトで小気味良いスィング感を生み出していている。
時代を感じさせない、硬質で瑞々しいサウンドもMPS盤ならではの素晴らしさ。
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