モノクロームという言葉を辞書でひくと、単色で描かれた絵と書いてあります。モノクロ写真とは白黒写真のことです。写真にかぎらず、テレビも映画もすべてカラーが当然という今、なぜモノクロ写真かと思うことでしょう。
1839年に写真が誕生して、1935年にカラー写真が発明されるまで約100年もの間、写真はずーっとモノクロームの道を歩んできました。現在でもなお、写真の世界ではモノクロによる表現が確立されています。多くの写真作家が撮った優れたモノクロ作品が美術館に収蔵されるようになって、観賞する機会も増えてきました。モノクロ写真は静かなブームといってもいいでしょう。
そこで、写真を始めようとする人なら、モノクロ写真を撮ったことのある人もない人も、この機会にモノクロ写真の楽しさを体験してみていただきたいと思います。モノクロ写真の魅力を探ることは写真の本質を探ることなのです。
どこの家庭にもよくある父や母の古い写真アルバム、そこに貼られた家族の記念写真を眺めます。黄色く変色したそのモノクロ写真からは遠い過去の記録にとどまらず、眼には見えない季節感や色までも想像できます。
「後ろの柿の木にこんなにたくさん実が付いている。きっと秋だね。空の雲がきれいだ。秋晴れのいい天気だったんだ」とか、「父も母も服装からして何か特別な日だったようね。銀婚式の記念かもしれない。11月に結婚しているから。お母さんのワンピースが素敵ね。このレース、きっと藤色だと思う」など、こんな会話もあるでしょう。
しかし、これがカラー写真の場合はどうでしょうか。空の色も、柿の色づき具合も、レースの色もすべて色情報によってイメージは限定されて、それ以上に広がることはありません。色は受け取る側の経験や美意識によって好き嫌い、あるいは快不快などイメージを感覚的に、あるいは生理的に語りかけてきます。モノクロとは違った視点が生まれるのです。このように、モノクロ写真の魅力のひとつは、見る側の想像力を刺激し、被写体や風景の中へ入り込んで思索的な世界へ導いてくれることです。
さらに、白から黒への微妙なグラデーションが独特の美しさを表現していることです。
色を排することで、主題の純粋性と透明性が強調されるのでしょう。 |