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もういちどカメラ
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藤森元之
「今回のテーマは着想・着眼点ですね。これは教えようがないので、講師としてどうしたらいいのか、じつは困ってるんですよ」
「私は生徒として、おおいに期待してるんですよ!」
「それはまた、どうしてですか?」
「写真の技術面ではほめられることがほとんどないのに、先生は着想がいいとか、目のつけどころがいいとか、よくほめてくださるじゃないですか!」
「あなたの着眼点の鋭さには感心しています」
「でも、それがどれを指しているのか、自分でわからないんです……」
「では、基本的なところから考えてみましょうか」
「おねがいします」
「まず、カメラを向ける場合、どうしてそこに向けるか考えていますか?」
「えっ? 考えていませんよ。きれいだな! とか、おもしろいな !とかじゃいけないんですか?」
「基本的に間違いではありませんが、それでは写真を志した生徒としてはさびしい発想ですね」
「……」
「被写体の何を見てきれいだとか、おもしろいとか感じたのか、それを具体的に映像で伝えるのが写真ですね」
「そのとおりです。きれいだから撮ってるんですよ!」
「そうじゃなくて、漠然と被写体を見るのではなく、どこのどんな状態に惹かれたのかを感じているはずですよ」
「そういわれると、たしかにどこそことか、何がいいとかいう理由がありますね」
「そこです。それをはっきり意識してください」
「それを撮るということなんですね」
「一緒に撮って回って感じたのは、好奇心が強くて、おもしろいと感じる感受性が豊かだということです。好奇心が強いと、着眼点が鋭くなります」
「他人と比較できることではないので、それほど好奇心が旺盛だとは思いませんが……」
「比較はどうでもいいことです。目のつけどころがいいんですよ。でも、写真にすると甘くなっていますが」
「……。着眼点はわかりました。では着想とは?」
「写真撮影に慣れてくると、こんな景色が写真になると考えていませんか?」
「最近、そういうことが多くなりましたね」
「じつは、それが成長の証でもあるし、危険な落とし穴でもあるのですよ」
「???」
「こんな景色が写真になる、と決めつけると、それ以外の写真を撮らなくなるケースが多いのです。これはいけませんね。着想が貧しくなります」
「どうしてでしょうか?」
「人は固定観念でモノを見てしまいます。簡単に物事を片付けてしまえば、本来の意味や現象を見落としてしまうことが多いのです。これでは本質を見極めることができません」
「たしかにそうですね……」
「その人の過去や経験でそうなるのは仕方ないにしても。しかし、視覚を鋭敏にしていけば、眼光紙背に徹すで、モノの裏側や本質、意味がわかってくるのです」
「つまり、固定観念にとらわれず、被写体をもっと観察しろということですか」
「そうです。もっと素直になって、ということは、美しいモノ、育つモノ、滅びるモノ、変わるモノをひろく受け止め、光の感度や色の感度まで感じられるように心を開いておくことです」
「そうしていますが……」
「もっともっと、オープンにしてください。あれはきらい、これは撮りたくないなんていわずに」
「あれっ、そういうこといってましたね、私は……」
●川越の写真つづき
f13 1/160秒 ISO 400
にぎわうお店の軒下で、楽しげにソフトクリームを頬張るおじいさんとおじさん。のんびりした観光地の風景をねらった
お年寄りにも楽しい、拓かれた観光地の雰囲気が伝わってきます。蜂蜜とソフトクリームのマッチングもほほえましく、露骨な商魂を感じない好感のもてるスナップショットです。着眼とシャッターチャンスを生かした作品になりました。
モチーフ
構 図
ピント
露 出
表現力
光線の選択
f10 1/100秒 ISO 400
菓子屋横丁の唐辛子屋さん。露店がつづく通りの風景。日除けの大きなパラソルが日本古来の色あいで、こんなところにも小江戸の趣がある
大きなパラソルが高く開いている。肩をぶつけながら歩く路地の窮屈な気分が、ここでホッと解放されるような雰囲気が出ています。パラソルの色も一役かっていますが、手前の女性の視線がつよく、全体のやわらかなトーンを妨げているのは残念です。
f13 1/125秒 ISO 400
川越の商店街は蔵造りのお店でなくてもほとんどが瓦葺で、看板も木造りだ。陣力屋は画廊喫茶で、「浪漫石焼」のロゴと看板代わりの人力車が色を統一し、立派なCIを実現している
蔵造りを核にして、観光に取り組んでいる街のようすがわかります。古い家並みにとけこんだ小さなお食事どころであるが、浪漫石焼の看板や、人力車、入り口の暗い空間が芝居小屋を連想させます。着眼のよさが光る作品です。
f8 1/40秒 ISO 400
風鈴屋の店先で風に揺れる風鈴。短冊の動きを表現するためにシャッタースピードを遅くした
背景が暗いために、被写体のイメージは弱くなったが、この街になじんだ骨董屋さんの店先のようでおもしろい。シャッター速度をもうすこし長くして、短冊のブレを強調したかったですね。
f11 1/125秒 ISO 400
人力車に乗った娘と車夫を記念に撮る母。ほほえましい様子を撮ってみた。このようなスナップ写真の場合、まわりの様子をどこまで写せばいいのか、いつも迷ってしまう
いい風景ですね。タイミングのいいシャッターチャンスがよい。この場合背景は大切な要素です。カットしすぎると味が消えてしまいそうです。ただし、この街らしい象徴的な背景であったらすばらしい作品になったでしょう。スナップショットのむずかしいところです。
f5.6 1/500秒 ISO 400
裏通りの陶器屋さんの店先風景。クレマチスと人力車の組み合わせに意外性があって独特の雰囲気をかもしていた。もう少し引き気味で撮るべきだったと思う
客寄せのために置かれた花と違い、この街で暮らす人の生活が感じられて心がなごみます。カメラを引いた場合は、視点が変わってしまうと思います。このフレーミングは適切で、なかなかいい構図ですよ。
モチーフ
構 図
ピント
露 出
表現力
光線の選択
f13 1/160秒 ISO 400
金彩工房の看板のある店先にピンクのTシャツが吊り下げられている。商品ではないようだ。ではこれはなに? 染物の見本だろうか。見ただけではわからないちょっとシュールな景色
「ただ古い、懐かしいだけではありませんよ」と言いたげな店構えです。蔵造りの建物の中で新しさに取り組む若者の姿がイメージできます。シンプルな画面構成がそんなイメージを強く表現できたのでしょう。色彩感覚にもすぐれた秀作ですね。
モチーフ
構 図
ピント
露 出
表現力
光線の選択
f11 1/60秒 ISO 400
いかにも川越らしい狐のお面を並べたみやげ物屋さんのショーウィンドウ。映り込みをおさえ奥行きを出すよう苦心した。映りこみを撮る時の露出がむずかしい
ウインドウ越しにねらった被写体がおもしろい。「狐の嫁入りだ!」とか、見る人それぞれにさまざまなことを思い起こさせるお面だが、カメラマン氏の意図はどこにあったのでしょう。ガラス越しとは思えないきれいな画像に仕上げたのは立派です。