スピーカーにはいろいろな形があるが、基本的には直方体のキャビネットに丸っぽい振動板ユニットが2個ないし3個ついた、というのが今でもいちばん多い。近年は大きさも形もますます多様化しているようだが、基本的な形というものには何かきっと斬新な工夫を超越する“力”があるのかもしれない。
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| いろいろな角度から見た「エレクタ・アマトール」 |
フランコ・セルブリンは、その“直方体と丸っぽいユニット”いう伝統的な基本形の中で、溜息の出るようなしなやかな造形美と豊かな再生力をもつ製品を作り上げた。それが「エレクタ・アマトール」なのだが、彼が基本形に持ち込んだ工夫は大きく分類すると以下の3点に集約される。
第1は再生音とキャビネットの関係、第2は前面バッフルの横幅、そして第3はスタンドの重要性、以上の3点である。
第1のキャビネットだが、フランコ・セルブリンがこのようなキャビネットを着想したのは、もうすでに明らかなように、弦楽器の胴体の果たす役割からであったことは間違いない。ソナス・ファベールの創業地ヴィツェンツァの近くに、ストラディヴァリウスなど多くの弦楽器製造の名工を生んだ町クレモナがある。そのクレモナの名工たちと彼らによって生み出された名器の1台1台に、彼が絶大な敬意を払っていることは、その後、クレモナや名工の名を与えたシリーズや作品を数多く造り上げていることからもうかがえる。
しかし通説に水を差すようだが、弦楽器とスピーカー、これは似て非なるものの典型である。なるほどどちらも音を出す道具には違いない。特に弦楽器の胴体とスピーカーのキャビネットは同じ役割をするものだと考えたい誘惑に駆られる。しかし、比喩と現実は違うのである。同じように思われるが、発音原理にも構造上にも根本的な違いがある。フランコは音楽好きなうえ、よく楽器を見ていたから、弦楽器の音の本質が名工たちの手塩にかけた胴体にあることを見抜いた。
しかし、スピーカーのキャビネット製造で参考にしたのは、弦楽器の形や素材といった直接的な“もの”ではない。その生み出す音との密接な“関係”である。だから彼はまず、いい音には、いいキャビネットを作ることが不可欠だ考えた。そしてその素材が“木”であることも必須だった。キャビネットの形は試行錯誤を繰り返し、周辺部が角張らず丸みを帯びたものに収斂していった。そして、この段階で第2の課題が密接に絡むのだが、横幅はウーファーのユニット幅ギリギリのサイズに抑えることが有利だと考えた。
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| いろいろな角度から見た「エレクタ・アマトール」 |
これは、伝統的なボックス型キャビネットをもつ他のスピーカーと大きく異なる点だ。普通は前面バッフルの横幅は、ウーファーがゆったり納まるサイズに設定される。しかし、写真で見られるとおり、「エレクタ・アマトール」の前面バッフルの横幅はウーファー口径より小さい。そのため、ウーファー部横のキャビネットがプックリと外に膨らんでしまっている。
これほどまでにして、横幅サイズを小さくしたかったのは、ドライブユニットから放射される音波がバッフルやキャビネットの部分で受ける悪影響を避けるためと、キャビネットの造りの良さを反映させるには、ユニットの振動とそれがもたらすキャビネットの振動を、十分にコントロールしなければならず、そのためにはこの形が必須だと考えたからである。つまり、木製キャビネットのメリットを生かすには、前面バッフルは可能な限り振動せず、またその周辺部で音波に悪影響を与えてはいけない。そうすればキャビネットの適度な振動による美しい響きが得られる、ということである。
その代わり、奥行きは通常サイズの2ウェイ機よりも深い。そして、このような形に木材を加工するのは非常に難しい。しかし、フランコの頭にあったのは、弦楽器の名工が胴を加工していく精妙な技術であった。
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| オリジナルの「ミニマ」 |
第3のポイント、スピーカースタンドだが、スピーカーはその置かれる場所の条件で、さまざまに音が変わってしまう、という本欄でもしばしば話題にしてきたことを思い出していただきたい。部屋の音響条件、床の強度など不確定要素が非常に多いことが、スピーカー設計者のいちばんの悩みの種なのである。製品がユーザーの手に渡ってしまったら、絶対に設計者がコントロールすることはできない。そういう不可能なコントロールを少しでも減らすために、フランコは、スタンドも木片を組み合わせ、大理石の底板に取り付けるという凝ったスタンドを作り上げたのである。このスタンドと組み合わせることによって、彼の狙いは完結するのである。したがって、よほど特別なアイディアと幸運がないかぎり、「エレクタ・アマトール」はスタンドと一体で使うのが、このスピーカーを最適に鳴らす条件となる。
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| 「MINIMA Vintage」 |
さて、このように「エレクタ・アマトール」についてお話してきたのは、「ミニマ」はこの「エレクタ・アマトール」に込められた理想と技術、そして再現力を、可能な限りそのまま引継ぎ、キャビネットをさらに小型化し、コストを下げ、一人でも多くの音楽・オーディオファンに使ってもらいたいと考えて作られたものだからである。「エレクタ・アマトール」を語ることは「ミニマ」を語ることと、ほぼ同じなのである。




