![]() |
| スケールの大きい再現力だと感心する金子さん |
ホヴランドの「STRATOS」は、仕様として表わされた能力は、出力パワーでいえば「400W/ch(8Ω)、690W/ch(4Ω)、800W/ch(2Ω)」である。形の大きさや価格からみれば、これは特に大きなパワーではない。そして少しオーディオに詳しい人なら、インピーダンスによる出力量の“リニアリティ”などということが頭をよぎるかもしれない。8Ωで400Wなら、4Ωでは800Wになるのがリニアリティのよいアンプだといわれることが多い。しかし、ホヴランドは690Wとなっている。単純に電力量だけの問題なら、800Wにすることはあまり難しくはないはずだし、一般的な見栄え(?)もいい。しかし、あえてそのようなところにこだわらなかったところに「STRATOS」の思い入れがあるはずだ。多くの他社製品を研究し、数え切れないほどのカット&トライで再現力を追求した結果の数字であるはずなのだから。ここには、見かけの数字を追うことよりも、再現性の質にかける姿勢のようなものが強く感じられる。これが10万円以下のアンプならともかく、600万円を超えるアンプなのである。パワーひとつとっても、数字上の美しさよりも再現性への執着がなければ、このような作り方はしない。そして、2Ωという低インピーダンス時には800Wのパワーがあるのだから、ほとんどのスピーカーに問題なく対応する実力をもっているのである。
ホヴランドのそのような姿勢は出力回路の設計にも発揮されている。「パワートランジスタはガラスと同じである。つまり強度(パワー)を求めるがためにいたずらにガラス枚数(トランジスタ)を増やせば、透明度(音楽)は必然的に犠牲になる」というのが、ホヴランドのフィロソフィーだと、発売元のホームページにあるが、「STRATOS」の出力段は4パラレルプッシュプルと、極めてシンプルな構成になっている。これで上記の出力が得られるなら、これは非常に正しい手法といわざるを得ない。
そしてこのアンプ回路は、ヒートシンクを向かい合わせに固定してモジュール化され、極めて高効率な対流式冷却を可能としている。以前時々見られたチムニー(煙突)型ヒートシンクに近い構造だ。またこの回路がモジュール化されているところにも意味がある。つまり、トランジスターの一部にトラブルがあったような場合、あるいは将来より性能を高めた回路が出来た場合、この部分を丸ごと入れ替えることによって、修理やグレードアップが容易に行なえるのだ。
もう1点あげるならパワーアンプの動力源である「電源部」の入念な作りだ。トランスにはホヴランド・オリジナルのユニークなC型コアが採用されている。このトランスは、E-Iコアとトロイダルトランスの両方の良さをもったものだという。詳細な説明はないが、トランスのコアまで新規に開発するところに意味がある。オーディオ製品は製造個数が他の産業製品に比べて少ないから、特注品を作るには相当なコストがかかる。それをあえて作り上げるところに、高級趣味製品を作るメーカーとしての誇りがあるというものだ。そしてトランスの設置にも配慮が行き届いている。トランス本体はシャーシから完全に切り離されて、メカニカルノイズや振動を排除するために設けられたアイソレーションボックスの中に吊り下げられる形になっているのである。
そうそう、キャビネット構造についても少し触れなくてはならない。シャーシには堅牢でダンピング特性に優れた厚さの異なる航空機グレードのアルミを組み合わせ、さらに天板裏にはアクリル板を張り込んで、さまざまな帯域の共振を抑制している。そしてオプションのコンポーネント・サポートスタンド・システム(別売)を装着すれば、特別なラックを使用しなくても、美しくしかもダンピング効果も得られるセッティング(積み重ねも)が可能となっている。
ここで再び最初の問題提起に戻らなくてはならない。アンプはスピーカーのもつ能力を完全に引き出すことが使命ではあるのだが、ではアンプ自身は無個性であればいいのか、というと、決してそうではない。同じスピーカーでもつながれるアンプによって、さまざまな再現性の違いが生じる。スピーカーの性能を捻じ曲げるのは論外だが、スピーカーの個性、性能に寄り添いながらも、アンプの性能によって違う再現性が得られるところが、オーディオの“難しくて楽しい”ところなのである。
スピーカーの再現力を生かしつつ、ひそかにその再現力は自分の力によるのだ、と自負するのがアンプの美学といえよう。そのようなレベルになれば、価格はもはや問題にする必要はない。ただし、できれば購入の対象になる程度の価格であってほしいとは思うが。
![]() |
| プリアンプはFM ACOUSTICSの「255MKII」 |
![]() |
| CD/SACDプレーヤーはLINDEMANN. の「820S」 |
さて、現在ホヴランドには「STRATOS」と組み合わせるプリアンプがないので、専門店レフィーノ&アネーロでは、FM ACOUSTICSの「255MKII」を組み合わせている。そしてプレーヤーは、ホブランドと同じ発売元が扱っているLINDEMANN.のCD/SACDプレーヤー「820S」、そしてスピーカーはルーメンホワイトの「silver flame」である。
以下はレフィーノ&アネーロの金子さんのメッセージです。
――昨年10月に行なわれた東京インターナショナルオーディオショウの最終日に、アッカのブースで目に止まったのが、このホヴランドの「ストラトス」でした。スピーカーは、同じくアッカが扱っているイスラエルのYGアコースティクスの「Anat Reference Professional」でした。これは、3キャビネット構成の大きなスピーカーです。これを一昨年は、ホヴランドの「サファイア」という真空管アンプで鳴らしていて、力不足を心配してかあまりパワーを必要とするような曲は鳴らしていなかったんですね。
![]() |
| スピーカーはルーメンホワイトの「Silver Flame」 |
それが、昨年は女性ソプラノの高い声がきれいに響いているのです。ブースが混んでいてアンプが見えなかったものですから、これは何か別のアンプなのかなあと思いました。すごくエネルギッシュでぐんぐん迫ってくるようなハイスピードな音でした。ああ、これが「Anat Reference」の本当の音なのかもしれないなって思ったんです。それでこのスピーカーの素晴らしい音を引き出しているアンプはなんだろうか、と気になりましてお客さんをかき分けて前へ進むと、アクリルとアルミフェイスの中に、青く柔らかい光を含んだ幻想的な筐体が、薄暗い室内の照明の中にぼわっと浮かんでいました。きれいでしたね。マッキントッシュを思わせる光ですが、またちょっと違った魅力がありました。それが「ストラトス」だったのです。音のスケールが大きかったですね。ホヴランドは、倍音成分の豊かな響きが魅力で、多少のパワー不足は我慢かなと思っていたのですが、このアンプの登場でもう我慢をしなくてもよくなったようです。ずしんとした力感があります。
現在、店内ではルーメンホワイトの「Silver Flame」と組み合わせています。じつにいい雰囲気で鳴っています。ぜひ一度ご来店の上、試聴してください。――




