どのような音で音楽を再生したいか、という理想を求めて私たち音楽・オーディオファンは機器を選び、再生空間(部屋)の音響条件を整える。同時に、メーカーもまた再生の理想を掲げ、それを実現すべくもてる技術を傾注して製品を作り上げる。私たちには購入価格や再生空間の大きさの制約があり、メーカーには部品の調達やコストの制約がある。それぞれ、一定の制約のもとに最善を尽くそうという点では、両者の基本的な姿勢は共通する。
私たちと製品の出会いで、もっとも望ましいのは互いの再生の理想が一致することだ。たとえば、再生音の解像度が最優先と思っている人には、音場空間の自然な再現を第一にしたスピーカーは相性が悪いということになる。
分かりやすい例でいえば、弦楽四重奏をサントリーホール規模の会場で聴くと、内声部(第2ヴァイオリン+ヴィオラ)の細かい動きは非常に聴き取りにくい。しかし、ホールでの体験が増えてくると、4つの楽器の響き全体の中で、内声部の動きは十分に判断できるようになって、大きな不満は残らない。ところが、オーディオ再生の場合は、全体の響きがホールで聴くのと同じような質感であることを望むと、一般的には内声部の動きはアイマイになりがちで、解像度の不足として大きな不満が残る。オーディオ再生では、響きの自然な美しさと、個々の楽器の音の明瞭さ(高い解像度)のバランスをとることは非常に難しい。
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| スリムだが豊かで重厚、繊細でしなやかな再現力をもつ 「FS 609 X-PI」 |
今回登場するドイツ、エラック(ELAC)社の「FS 609 X-PI」というスピーカーシステムは、そのキャビネット構造、振動板素材、各ユニットの連携ぶりを見ると、その難しいバランスをとることが大きな再現の理想となっていることにすぐ気づく。キャビネットトップに置かれた半球形のリボントゥイーター、広い帯域を受けもつ「NEW X-JET COAX」と呼ばれる強力な中高域ユニット、そしてアルミとパルプのハイブリッド素材を強力なネオジウムマグネットでドライブする3個のウーファー。ここまで聞いただけで、少しオーディオ経験の長い人なら、「うん、なかなかヤルなあ」と思うだろう。この仕掛けが狙いどおりに働けば、滑らかな美しい響きと高い解像度は、ともにかなえられるはずなのだから。
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| ネットを外すと各ユニットがよくわかる |
エラック社のスピーカーは、本欄では同社の80周年記念モデル「FS 210 Anniversary」を紹介した(ELACの人気モデル「600LINE」に木製キャビネットの80周年記念モデル登場/2006年9月27日掲載)。今回登場した「FS 609 X-PI」は、その記念モデルのベースにもなった「600LINEシリーズ」の最上位に位置する、いわば同社のフラグシップ・モデルともいうべきものである。簡単に特徴を並べてみよう。
キャビネットは記念モデルとは違い、シリーズ共通のアルミ・ハイブリッド・エンクロージュア。これは、不必要な振動は発生せず、それでいてユニットの動きを柔らかくサポートするというすぐれものだ。
キャビネットトップの半球状スーパー・トゥイーターは「4 PI PLUS.2」と呼ばれる、世界最薄のリボントゥイーター。この360度に拡散される超高音域が、このシステムのしなやかな響きと高解像度のバランスに大きく貢献している。
通常の3ウェイシステムではスコーカーと呼ばれるユニットが受け持つ帯域を担当するのが、「X-JET」というコアキシャル・ユニット。これは400Hz〜50kHzまでというとんでもない広い帯域をカバーしている。これが豊かな低域と可聴帯域のつながりをスムーズにして、このスピーカーの高い音楽性に寄与している。
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| キャビネットのトップに置かれた半球状のスーパー・トゥイーター。この360度に高音域を放射するユニットによって間接音の豊かさと美しさが得られている |
低域担当のウーファーは、18cmという比較的小口径のユニットを片チャンネル3個使っている。これは、低音の伸びのよさを得ると同時に、とかくダルになりがちな大口径ウーファーの短所を排除して、スピード感を獲得している。いわゆる応答特性に優れた低音である。
なお、キャビネット背面には、スーパー・トゥイーター部のゲインとクロスオーバーを簡単に切り替え設定できるスイッチが装備されている。クロスオーバー周波数が、0FF/6/9/12/16kHzの5段階、ゲインが-1dB/±0dB/+1dBの3段階で変えられる。これによって、高音域の伸びやかさだけではなく、間接音の響き(アンビエント)を自分の好みや部屋の大きさに合わせて調整できる。この1点をみても、エラックの設計のきめ細やかさと、理想追求の厳しい姿勢が納得できるというものである。
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| キャビネット背面にあるスイッチで、自分の好みや部屋のサイズに合わせてスーパー・トゥイーターの働きを調整できる | しっかりした入力端子。バイワイヤリングにも対応している |





