音楽が好きな人なら誰だって、最上のコンサートホールで聴く、あの豊麗な音を、あるいはライブハウスの、あの熱気ほとばしる音を、自分の部屋で再現したいと夢見ている。しかしホールでは、人の声や、さまざまな形をした楽器の音が、理想的に設計された音響条件の空間で一体となっている。その音の質感とエネルギー、そして大きな空間に拡散する響きは、一般的な家庭の部屋とオーディオ機器では、残念ながらそのままの姿で再現することは不可能だ。そういう意味からいえば、本物の音とオーディオの音は、本来次元の異なるものなのである。
しかし、オーディオはその本物の音、あるいは“ナマ”の音の再現を理想として進化してきた。その理想の音は“いい音”といってもいいかもしれない。オーディオにかかわる専門家も、あるいは年季の入ったオーディオファンも、よく“いい音”という言葉を使う。それでは、オーディオにおいて“いい音”っていったいなんだろう。
オーディオは趣味の世界のものだから、人それぞれに理想は違ってもいいのだが、好みの違いを超えた次元で、誰もが共通して認識できる“いい音”というものがありそうな気もする。
「このスピーカー、いい音だね」
「うん、俺の趣味には合わないけど、いい音だってことは認める」
こんな会話が成立するのは、明確に定義することはできないかもしれないが、確かに“いい音”といものがあるからだろう。そんなことを長いこと考えていて、ある時、こんなことが頭に浮かんだ。“いい音”とは、「自分が聴いた最上の音を、思い起こさせるような音」「感動したナマの音と相似であるような音」ではないか、と。
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| 試聴スペースにセットされた「Isis」(内側のモデル) |
そこで、アヴァロン(AVALON ACOUSTICS)のスピーカーである。現在世界的に高級スピーカーの代表として知られるアヴァロンのスピーカーは、ニール・パテル(Neil
Patel)という天才的設計者によって開発されている。そのパテルの考えは、こうだ。
「開発は感動からはじまる。その課題は、音楽を創り出す音楽家と聴き手との間に精神的融合、連帯感を感じ取れる作品を創造すること。あらゆるジャンルの音楽再生を聴き手が“演奏会場にいる”と錯覚するスピーカーを作ることが、アヴァロンの制作動機であり、設立当初から堅持する経営哲学だ」
なるほど。“演奏会場にいると錯覚するスピーカー”とは名言である。そしてそれは前述の「自分が聴いた最上の音を、思い起こさせるような音」と、ほぼ同じことなのではないだろうか。そう思うと、なぜか急にアヴァロンのスピーカーに親しみを覚えるのである。
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| いかにもアヴァロンらしい外観の「Isis」 |
そして「Isis(アイシス)」である。古代エジプトの豊穣の女神「イシス」の名をいただくこのスピーカーは、形からもコンセプトからも、アヴァロンの他のスピーカーと姉妹関係にある。しかもその中では、大きさも価格も最上位置モデル「Sentinel」に次ぐものだ。ここで思い出したが、現在はディスコンになっているが、アヴァロンには「Osiris(オシリス)」という巨大モデルもあった。「イシス」は「オシリス」の妻である。弟神セトに妬まれて殺されたオシリスの死体を、妻のイシスがミイラとして復活させたのであった。そのため、オシリスは「冥界の大神」、イシスは「死と再生の女神」と呼ばれる。
そうそう、モーツァルトのオペラ「魔笛」では、第2幕第1場で、イシス・オシリス神の大祭司ザラストロが「O Isis und Osiris …」と歌う厳かなアリアが有名だ。
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| ネットを外して正面から見ると、いかにも超弩級という顔をしている |
スピーカーはオーディオ機器のなかで、最終的に電気信号を人の耳に音として感じられるものに変換する(この役割を“トランスデューサー”という)役割を担っているので、しばしば楽器に譬えられたりする芸術的な存在だ。しかしスピーカーは同時に工業製品としての側面をもつわけで、設計者の理想を具体的な音にしていくには、電気や音響、素材の性質などを知る科学技術が必要になる。優れたスピーカーを作るには、設計の理想や再生の哲学も重要だが、それと同等以上に優秀な科学技術が必要なのだ。その点でもアヴァロンは、エンクロージュアの素材とその構造、ネットワーク回路や磁気回路のさまざまな部品の選択、音響工学などあらゆる技術に精通している。それらの具体的内容については、発売元とメーカーのホームページをご覧いただきたい。



