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| ウェストレイクオーディオ「BBSM-15VNF」はかなりの重量級スピーカーだ |
大型のスピーカーを目にすると、誰もがこれを鳴らすにはアンプも巨大で強力なものじゃないと駄目なんだろうなあ、と思ってしまう。それが人情というものである。38cmのウーファーが左右で4〜8個もついた巨大なキャビネットなんか見た日には、その振動板を動かすだけで相当な電力を必要とすると思い込んでしまう。
かく申す案内人にも、こんな体験がある。日本の優れたモニタースピーカーとして知られる、レイ・オーディオ(REY AUDIO、木下モニター)の「RM-7V」という巨大なシステムを初めて目の前にした時のことである。木製ホーンを2個の40cm級ウーファーが上下から挟むという(バーティカル・トゥイン)方式のこの巨大システムには、一体どんなアンプをつなげばいいのだろうかと思い悩んだものである。1台で250kgという堂々たる木製キャビネットは試聴室に運び込むだけでも大事業であった。
あれこれアンプを選んでいると、傍らにいたベテランのオーディオライターT.I.さんがこういった。
「これさ、そこにある15万円程度のプリメインアンプでも結構鳴るんだよ」
「えっ、このプリメインですか?」
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| 前面バッフルの中央部。ホーンの上は低音用ウーファー。下はバスレフの開口部とミッドレンジユニットの一部 |
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| 前面バッフルの下部。ホーンの下はバスレフの開口部とミッドレンジ、そして2つ目の低音用ウーファー |
からかわれているに違いない、どうせ情けない音しか出ない、あるいは途中でダウンしてしまうのではないか、と思いながら接続してみた。そして、適当に選んだ手元のディスクを回して、驚いた。かなりまともに鳴るではないか。T.I.さんは涼しい顔でいった。
「まあさ、オーディオってそんなもんだよ。もっとも、しばらくそれを聴いてたら不満は当然いろいろと出てくるだろうがね。単に駆動するということであれば、最近のアンプは結構強いんだ」
大型システムには、大出力アンプが必要とは必ずしもいえないのだ、ということを学んだのであった。
ウェストレイクオーディオの「BBSM-15VNF」は、3ウェイ4スピーカーで、ユニット配置は高域のウッドホーンを上下からウーファーが挟むという、バーティカル・トゥインに似た方式だ。ただし、ホーン下部の低音ウーファーの上に、一回り小さいコーン型の中域ユニットが置かれているのが少し違う。ウーファーは口径38cmが2個、中域ユニットの口径は25cmだから、かなり大きなユニットである。
しかし、このシステムの素晴らしいところは、出力音圧レベル(能率)が99dBもあるところで、これは最近のスピーカーの中でも屈指の高能率だ。ということは、アンプの出力はそれほど大きくなくても駆動できる。今回接続しているエアータイトの「ATM-2」は「80W+80W(8Ω)」だから、真空管アンプの出力としては大きいほうだ。一般的な音楽を妥当な音量で聴くのであれば、まず再生には何の心配もいらない。むしろ金子さんのいわれるように、出力の小さいことよりも、真空管による再現力の良さが引き出せるだろう。
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| エアータイトのプリアンプ「ATC-1」 |
スピーカーはそのサイズの大小にかかわらず、アンプとの相性では、能率のほかにもう1点注意が必要な項目がある。それは「入力インピーダンス(抵抗)」である。この項目では、アンプからの電力供給力との関係を知ることができる。通常、スピーカーの入力インピーダンスは、周波数帯域によって変化するが、仕様で表記されている場合、周波数が記載されていない場合は概ね1kHzでの数値、もしくは平均的な数値と考えられる。数値が大きければ抵抗が大きいわけだから、電力の流れは小さくなる。逆に数値が小さければ抵抗が小さいので電力はたくさん流れることになる。
スピーカーの入力インピーダンスは、6〜8Ωが一般的だ。6Ω以下は大型システムや、特殊な構造構成のシステムにときどき見られる。そして、公表された仕様に単に4Ωなどと書かれている場合でも、ある周波数帯域ではさらに下がって2Ωになる、などという場合もある。たとえば、私が数年前まで使っていたインフィニティの「IRS-ベータ」という、ウーファー部と中高域部が独立キャビネットになっている大型システムは、10kHz前後で2Ωを切るという特殊なタイプであった。この場合、アンプの電力供給力が弱いと、ソプラノがフォルテで高い声を長く伸ばすような部分で、音が歪んでしまう。
オーディオは単なる実用家電製品ではないから、多少効率が悪くても、自分の好きな音が得られるなら納得できる、という側面をもつ。趣味はどんなものでも、多少は不経済なものなのだから。もしインピーダンスの低いスピーカーが気に入ったとしたら、それに見合うアンプを探すしかないのである。
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| エアータイトのパワーアンプ「ATM-2」 |
ところで、「BBSM-15VNF」はどうかというと、入力インピーダンスは「4Ω」とあって、これは決して高くはない数値だ。むしろ低い部類である。周波数帯域による変化は発表されていないのでわからないが、さらに下がる帯域があると思っておいたほうが安全である。金子さんが「曲によっては無理な部分もあるかもしれません」といっているのは、そういう点を考えてのことだろう。
しかし注意したいのは、アンプの電力供給能力は、仕様の「出力」の数値だけではわからない、ということだ。比較的パワーが小さくても、電源部が強力であれば、低いインピーダンスでも楽々と駆動する場合が多い。原則としては出力数値の大きいほうが無難だが、それだけで決まるものではない、ということも知っておくべきなのである。
「ATM-2」は非常に良くできたアンプなので、「80W+80W」という数値から想像するよりも電力供給力はずっと高いとみていい。特別大きな部屋で、大音量で鳴らすのでなければ、ほとんどのジャンルの音楽を問題なく再生すると私は思う。しかし詳しくは、金子さんのように数多くの組み合わせを体験しているお店の人に聞くのがいいだろう。
スピーカーの駆動力に問題がなければ、トランジスタアンプとは一味違った真空管アンプの再生力を楽しむことができる。金子さんは今回の組み合わせを「中域に温度感があって、それが声の温かみとなって、まるで耳元で囁かれているみたいな感じがします」と表現している。概して真空管アンプの音の特色は「温かい」といわれることが多い。陰極(カソード)が熱せられて、ポーッと赤みを差している視覚的効果も合わさって、音に温かみを感じるのは否定できない真空管アンプの魅力である。
しかし同時に、カソードから電子が飛び出してグリッドをくぐり抜けてプレート(陽極板)に吸引されていく、ダイナミックな電子運動による信号増幅は、音楽再現の力感や豊かな陰影に結びつくように思う。トランジスタは俊敏で純度の高い増幅力が得やすいので、設計者はどうしても、広大なダイナミックレンジ、高いSN比、全周波数帯域でのフラットなレスポンスという、オーディオの3大原則を追求してしまう。その結果、素晴らしい性能の機器が生まれるのは確かなのだが、一方で、とかくさっぱりとした薄味の表現と感じられる音にもなりやすい。したがって純度の高いトランジスタアンプの音に慣れてしまった耳には、たとえSN比が多少悪くても真空管アンプの音が新鮮に、力感豊かに感じられることがあるのだ。
また、「ATM-2」の出力管「KT88」の個性もかなり音色に影響を与えている。エアータイトにはウェスタン・エレクトリック社製の「300B」を使用した「ATM-300」もあり、これも出力は同じ「80W+80W(8Ω)」だが、比較すると音色、表現力の違いがかなり出る。これもまたオーディオの面白くて、奥の深いところなのである。
今回、金子さんが提示された「大型スピーカーを真空管アンプでドライブする」というテーマの結論は、
「駆動力に問題がないアンプを選べば、真空管アンプの良さが大型システムでも十分に引き出せる」
ということになるだろう。
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| CDプレーヤーはマークレビンソンの「No390SL」 |
なお、今回の組み合わせで使用したプレーヤーは、マークレビンソンの「No390SL」。前作の「No39L」に、最新のデジタル・テクノロジーを投入して大幅なバージョンアップをした一体型プレーヤー。現在最高峰の一つに数えられる優秀機だ。






