このような大型システムを理想的に再生するには、さまざまな条件が必要になる。最大の問題は設置する場所だが、仮に条件を満たすようなスペースがあったとして、次の課題は組み合わせの機器ということになる。幸いこのスピーカーの能率はかなり高いから、最新の平均的な水準のプリメインアンプでも、単に鳴らすという次元でなら、問題なく鳴る。しかし、このシステムにふさわしい再現力を得ようとすると、実に難しいのである。
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| 試聴室のシステムと金子さん |
そこで、金子さんのお勧めにしたがって、レフィーノ&アネーロの試聴室のように、音響条件が整えられ、さまざまな機器が揃っているところで聴かせてもらうのがいちばん参考になる。
さて、この試聴室でつながれているアンプは、というと、FMアコースティックスのプリアンプ「FM255MkII」とパワーアンプ「FM711」である。重量が5kgと25kgで、さほど重くはないし、サイズも平均的で特に大きいということはない。しかし、両方合わせてなんと、1,000万円を超えてしまう。

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| プリアンプはFMアコースティックスの「FM255MkII」 |
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| パワーアンプはFMアコースティックスの「FM711」 |
FMアコースティックスは、スイスのメーカーで「FM」は放送波とは関係なく、「For Music and Acoustics」のはじめの2語の頭文字による。創立は1973年。優れたスタジオ用アンプで早くから日本でも知られていた。一般コンシューマー用の製品を作るようになったのは1988年以降のことだ。シンプルな回路、徹底的に選び抜いた優れた部品を、1台1台手作業で組み上げるため、見かけの大きさや重量に比べて、非常に高価なものとなっている。高級ハンドメイドの腕時計が高額なのに通じるのだ。
冒頭に記したとおり、ここでは価格は忘れることにしよう。注目していただきたいのは、音楽を鳴らしていながら、深い静寂感に試聴室が満たされるという、不思議な感覚である。優れたアンプの駆動力というのは、なぜか静けさを感じさせるのである。わかりにくいかもしれないが、楽音以外の余計な音を抑え込み、楽音をフワッと空間に浮かべてくれるようなイメージだ。並のアンプは、こういう“力”はもっていない。
オーディオ再生のほめ言葉には、滑らか、しなやか、繊細、美しい、深い、伸びやか、解像度が高い、透明感がある、色彩感が豊か……など、無数の形容詞、形容句があるが、それらとはちょっと違った次元の要素で、“再生空間の制動力”とでも名づけたくなるような能力がある。それは、スピーカーが置かれた部屋の空気を完全に支配し、再生音を空間に浮遊させる能力のことである。生の音とオーディオの音とのいちばん大きな違いが、この楽音が空間に浮かぶかどうか、ということにかかっている。それが、まるでコンサートホールの最上席で聴くような“上質の音”の正体なのだ。FMアコースティックスのアンプには、それを再現する力量が備わっている。この再生状態をしっかりと聴いて記憶に残し、いろいろな機器を選ぶ時の基準にすれば、失敗することなく、自分の目指す音に近づくことができる、それぐらい重要なオーディオ再生のポイントなのである。

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| AVIDの重厚なアナログプレーヤー「Acutus」 |
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| OracleもゴージャスなCDトランスポート |
プレーヤーはアナログがアヴィッドの「アキュータス(Acutus)」と、オラクルの「CD PLAYER」。試聴室には他メーカーのD/Aコンバーターもあるので、オラクルはトランスポートの「CD
DRIVE」と組み合わせることもできる。
スピーカーとアンプがこの組み合わせのような超弩級の優秀機となると、プレーヤーは精度の高さが要求される。というのは、平均的なシステムでは現れないような、わずかな欠点がここでは露になってしまうからだ。そういった意味で、試聴室に用意された2つのプレーヤーは、十分な実力を備えた名機といっていいだろう。そして、見た目も実に美しく、惚れ惚れとさせられる。重厚な「アキュータス」、華麗な「オラクル」、両者は対照的な外観だが、性能が形に直結している美しさという点では共通している。いつまで聴いていても聴き飽きることがない。
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| アナログプレーヤーを操作する金子さん |
「アキュータス」は、内外部の不要振動を徹底的に排除している。それを可能にしたのが、AVID社の精密加工技術で、ターンテーブル、軸受け、モーターなどの主要部品は、AVID社の製作するヘリコプターやレーシングカー用メカ部品と同じ精密加工機によって、自社製作されているのだ。そして、通常の10倍の駆動力をもつハンドメイド24極シンクロナス・モーターが、質量10kgのアルミ削りだしターンテーブルを余裕をもってドライブする。デジタル主流の時代に、このようなアナログプレーヤーが、作り続けられていることは、本当に頼もしいかぎりだ。 |