「ノーチラス(Nautilus)」と聞いて、アメリカの原子力潜水艦を思い浮かべるのは、やはり団塊世代の生真面目さからだろうか。ジュール・ヴェルヌの「海底二万里」を思い出す人も多いだろう。B&Wのスピーカーはどうだろう? もし、真っ先にあの“ユニーク”を通り越して“何だこりゃ”と思わされた、B&Wのスピーカーを思い出した人がいたら、それは相当なオーディオマニアである。ここでは当然、スピーカーを思い出してほしい。確か1994年か95年の登場だったはずだが、マランツの該当ホームページの[Price List]を開くと“受注生産”とあるから、今でも入手可能だ。写真も掲載されているのでぜひご覧いただきたい。
 |
 |
| レフィーノ&アネーロの外から見える「V1.5」。ユニークな造形には存在感がある |
なぜここで「ノーチラス」なのかというと、あの前代未聞のスピーカー開発に携わったロバート・トランツ(Robert Trunz)とローレンス・ディッキー(Lawrence Dickie)の二人が、B&Wを退社して、VIVID Audio(ヴィヴィッドオーディオ)の主要メンバーとなっているからなのだ。この会社は、B.ゲスナーとP.グッテンタークの二人によって、1991年、南アフリカ共和国に設立された音響コンサルティング会社「GGA」が母体となっていて、これが2003年に「VIVID Audio」に社名を改めたものである。
 |
 |
正面から見た「V1.5」
|
B&Wではトランツが経営者の立場にあり、エンジニアのディッキーが「ノーチラス」の開発製造に当たっていた。しかしディッキーは、B&Wを退社して、ドライバーの開発から最終製品化までのすべての工程を自分が担当できるメーカーを探していて、トランツのいるVIVID Audioを選んだのだという。
こういう経緯を知って「V1.5」を見ると、なるほどこれは「ノーチラス」の子供か孫にあたる縁続きに違いない、と思えるではないか。ラグビーボールをやや押し伸ばしたようなキャビネットのユニークさは、ディッキーならではのものだ。美術館に展示される“オブジェ”でもあるまいに、彼以外の誰がこんな“奇妙なフォルム”のスピーカーを考えつくだろうか!? しかし、「ノーチラス」にくらべて「V1.5」というネーミングはかなり寂しい感じがする。この仲間に「B1」「V1」があり、それぞれ正式名は「Loudspeaker system V1.5」のようになっているだが、ずいぶん即物的ネーミングではないか。呼びやすいいい愛称があれば、人気もぐっと高まるだろうと思う。それにしても、こういうスピーカーの形は、音響技術的な着想が先なのだろうか、それとも造形の発想が先なのだろうか? 天才設計者の本心は推し量るしかないが、おそらく同時進行状態で生み出されるのではないかと思う。
 |
 |
| 「V1.5」の背面 |
ホームページの解説を要約すれば「ノーチラス」は、「キャビネット自体の共鳴による“色づけ”を抑え込むために、ドライブ・ユニットを取り付ける前面バッフルを極小にし、共鳴をユニットの後方に通過させ逃がしてしまう。これによりキャビネットの存在を薄めることができ、4本のドライバーが正確なピストン運動を行ない、可聴範囲全体におよぶ倍音成分をすべて再現し、シームレスな音場を描き出す」という。
必要悪であるキャビネットが、あたかも無くなってしまったようなキャビネットが欲しい、という再生の理想を追求した結果として、あの「オウム貝キャビネット」が発想された。順序としてはそうなるが、ディッキーの頭には、かなり前から「オウム貝」の形があったはずで、それが脳内で音響の理想と、幸運な奇跡的出会いをしたのだ、と思う。ひょっとすると、ディッキーは「海底二万里」の愛読者であったのではないか、と思う。 |