美術でも文学でも、処女作にその作家のすべてがあるといわれる。オーディオ機器は芸術作品とはいい切れないないかもしれないが、似た要素はある。さしずめソナス・ファベールのスピーカーはその代表的なものではないだろうか。
1988年に登場した「エレクタ・アマトール」は、ソナスの処女作といっていい作品だが、そこにはその後登場したソナス製品の特色のすべてが包含されていた。その完成度はとても新しいメーカーの最初期の製品とは思えないほど高かった。ドライバー・ユニットの選択、使いこなしの優秀さは当然ながら、もっとも印象的だったのは、それを納めるエンクロージャーを音楽再現の要として重要視する姿勢と、その造りの見事さであった(スピーカーシステムのエンクロージャーは、キャビネット、ボックス、箱、筐体などといろいろな呼び方がある)。
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| ジェフ・ローランドコーナーのガルネリ・メメント |
スピーカーの性能や表現力を決める要素はいろいろあるが、大きく分類すれば、ユニット、エンクロージャー、ネットワーク回路の3点になるだろう。ソナスは最初期から、エンクロージャーに最大の特徴があった。その他の部分が軽視されていると誤解しないでいただきたい。あくまでも、他メーカーに比べてエンクロージャーが特徴的だということである。優秀なユニットは、それだけでは真価を発揮しない。それにふさわしいエンクロージャーに納まって初めて本領を発揮できる、ということをソナスはどのメーカーよりも重要視したのである。
この考えは、ソナスの本拠地が優れた弦楽器の生産地、クレモナに近いこと、そして創業者のフランコ・セルブリンがその弦楽器職人たちを深く尊敬する、優れた木工技術者であったことと無縁ではない。たとえば、ヴァイオリンの音を出す直接的な振動素材は「弦」だが、箱が無ければ音は弱々しく、とても音楽を豊かに奏でることはできない。あの女体の美しさから生まれたという箱=胴体があって、初めて朗々と音楽を歌うことが出来るのだ。そしてその箱は、素材、形、組み上げ、塗料(ニス)の優秀さが総合されて初めて「楽器の胴体」に生まれ変わる。この関係はまさにスピカーにおける、ユニットと箱の関係に似ているのである。処女作以来のソナスの全製品には、この考え方が生かされているのだ。 |