昂ぶりと緊張が同居する“遠く”をめざして
7月某日、早朝。帆かけサバニに乗った僕たちは、沖縄本島の那覇から西へ向かって出航したのだった。
サバニの上には、水と、食料と、キャンプ道具と、ビール。それに、これからの数日をともに過ごす仲間たち。目の前には世界へつながる海があり、見上げると青空と入道雲がある。
それだけでじゅうぶんではないか。これ以上に必要なものなんて、思いつかない。
サバニとは、この南の海域で生まれ育まれてきた小さな舟である。帆かけでも、漕ぐことでも走ることができる。もう何百年も前から、琉球の風をとらえ、島から島へと文化と文明を運んできた舟だ。海人たちの叡智が詰まった舟である(サバニのことは、前回更新の『サバニ帆漕レース』の話も読んでください)。
われわれは梅雨が過ぎ去った南の海で、古式の舟に乗って、那覇を出て、風まかせの旅へと出かけたのだ。最終目的地は、とくになし。
というか、目的地はクルーそれぞれによって微妙に違うようだ。
ここ以外のどこかへとか、まだ見ぬ理想郷へとか、結婚とか、かみさんが追ってこない島へとか……。
ま、そんな感じで、全長8メートルのサバニに、6人が乗りこんだのだった。
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梅雨明けのこの季節には、北上した梅雨前線に向かって湿った南風が吹く。かーちべー(夏至南風)と呼ばれるこの風を、古代の琉球の海人たちは、北への足がかりとしていたのだ。
われわれもこの風をつかまえて、北へ、西へ、東へ、と自由に、なるべく遠くへ出かけよう、としているのだ。
小学生のころ、遊びに行こうとすると親や先生に「遠くへ行ったらだめだよ」と、いわれたものだった。
そのときから僕のあこがれは、“遠く”という言葉に集約されるようになった。“遠く”には、子どもには見せられないなにやらすごいことが待っているのだ。
いまでも、その思いは変わらず、もっと遠くへもっと遠くへ、と心が向いてしまうのだった。
今日の目的地は、慶良間列島の北に位置する無人島・儀志布(ぎしっぷ)島だ。那覇からの距離は、約35キロ。
出発してから約一時間。あいかわらず、目の前には海があり、その上には青空と入道雲である。
そして、振りかえるとすぐそこに沖縄本島がどっしりと座っている。ほとんど進んでいないではないか。まだまだ本島の手の内、という感じだ。
そうであった。ひとつだけほしいものがあった。風だ。それも、ほどよい風だ。
風と漕ぎだけが燃料の帆かけサバニでは、風が吹かないと漕がなければ進まない。やはり、風はほしいところだ。
しかし、今日は朝から西南西の風だ。
ほぼ真西へと進路を取るわれわれにとっては、わずかながらの向かい風である。
やれやれ、いつになったら儀志布島へ着くのやら……。
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