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第五十四話 1月24日更新
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島根県は江の川で、モクズガニ三昧 その濃厚な味に、めまいを覚える
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こうしてモクズガニ三昧の日々がはじまったのだ

モクズガニは、味が濃い。カニの味が、その身に凝縮されているのだ。
カニにうるさい僕(ただうるさいだけだが)のなかで、味に関しては、1位、2位をあらそうカニである。
そんなモクズガニの特別料理である『つぶし汁』を「とにかく、腹いっぱい食いたい」と叫んだら、島根県の江(ごう)の川(※1)流域に住む小田ちゃん(小田博之)が、「どうせなら、捕るところから楽しんで、そのあと料理しよう」とあいなったのだ。
小田ちゃんは、以前にこのサイトで『もういちど川遊び/江の川・遊び歩き抄』を書いていた人物である。
NPO法人「ひろしまね」(※2)の事務局長として、江の川流域を広く歩きまわっている。お茶目な目をしてとぼけたことをいいながらも、歴史と文化をどこまでも深く掘り下げていく男なのだ。
そんな小田ちゃんと、江の川で遊んで70年の富永平八郎さんとともに、モクズガニ捕りへと出かけたのだ。

モクズガニ漁は、魚の切り身などをえさにカニかごと呼ばれる四角い箱を川底に沈めて待つ、というのがふつうだ。
が、川を遊び尽くす小田・富永組のやり方は、そんなのどかなものではない。
寝ているモクズガニを、その寝ている穴のなかに手を突っ込んで、捕まえてしまおうというのだ。

江の川の支流へと出向き、なるべく小さな川を歩き、カニが潜んでいそうな穴を探す。大きな川では、カニが川底深くに潜んでいると見つけることができないのだ。
川底や川岸の際には、岩の隙間や穴が数々ある。が、カニが潜んでいる穴の入り口はきれいに砂が盛ってある、というのだ。そうした穴を探し、手当たりしだいに手を突っこむ。
季節は晩秋、水温低く、穴は深い。肩までを水のなかに入れると、すぐにやめたくなってくる。
が、とある穴で、「おっ、おるで、おるで」と小田ちゃんの顔が輝く。
しかし、手をつっこんだまま、じっとしている。なかなか捕まえきれないようだ。
なんでも、カニの前足をつかんでいるものの、カニも「引きずり出されてはたまらん」と必死で残り9本の足を踏んばっているらしい。
10分ほど綱引き状態だったが、ようやく小田ちゃんが穴から手を出した。
しかし、冷えきった小田ちゃんの手には、カニのでっかいはさみだけが握られていたのだった。前足だけが、ちぎれてしまったのだ。
半日川を歩いて、戦利品はこのはさみひとつである。そんな日もある。
今度は、もうちょっと暖かい時期にこのモクズガニ捕獲作戦を敢行しよう、ということでわれわれは意見の一致をみた。今日のところは終了である。
ならば、カニ料理もお預けか、と思ったが、さすが小田ちゃんである。こういうこともあろうか、と前もって大量のモクズガニを漁協に注文しておいてくれたのだ。
「いや。『こういうこともあろうか』じゃなしに、『こうなるだろう』と思って注文しておいたんだわ」ということであった。

このように肩までを川のなかに突っこみ、穴で寝ているモクズガニを捕まえるのだ
ちぎれてしまった大きなはさみ。本日の収穫は、このはさみだけ
 

というわけで、この日の夜から三日三晩、モクズガニ三昧の日々がはじまるのである。
その晩に、まずは蒸して食べる。
これはオーソドックスな食べ方だ。手と口のまわりをべとべとにして、口数少なく、とにかくむしゃぶりつく。至福時間が過ぎていく。
そして、次の日には、いよいよつぶし汁である。これは、やたら手間暇がかかる料理だ。準備に2〜3時間ほどかかっただろうか。しかも、力仕事もある。豪快な料理だが、味つけは繊細に。カニのすべてを、爪の垢から毛の先までを味わう料理でもある。
こうして僕は、念願のつぶし汁にありついた。しかも、指先や服や髪の毛にまでモクズガニの匂いが染みつくほど大量に。
つぶし汁にすると、カニの味はさらに濃厚となる。めまいがしてくる。その濃さは、体中の毛穴からモクズガニの匂いが染み出てくるんじゃないか、と心配になるほどだ。
もうしばらくは、カニのことを考えずにすみそうだ。
この味わいの深さは、モクズガニの悲哀が作りだしたのかもな……。

※モクズガニのつぶし汁の作り方は、写真キャプションと、以前に小田ちゃんが書いた『11月はツガニ(モクズガニ)の季節』を参照してください。

 
つぶし汁の料理指南は、富永平八郎さん。江の川に生まれ育ち、70歳になったいまも江の川で遊ぶいかしたおじさんである
足をもぎり、甲羅をまっぷたつに切る。少々残酷だが、こうして石臼に放り込むのだ。モクズガニには、肺吸虫(ジストマ)が寄生するので、生で扱うときは注意を!
モクズガニのすべてを、ひたすら杵でつく。とにかく細かくするのだ。この作業がいちばん大変
モクズガニのすべてを、ひたすら杵でつく。とにかく細かくするのだ。この作業がいちばん大変
ついたりこねたりで、ペースト状になったカニを、木綿の生地に包んでエキスを絞りだす。カニのうまいところだけを取りだすのだ
ついたりこねたりで、ペースト状になったカニを、木綿の生地に包んでエキスを絞りだす。カニのうまいところだけを取りだすのだ
絞った汁をなべで加熱し、みそを少々入れる。と、やがてタンパク質が固まりだし、カニの味だけでできたふわふわ豆腐状態に
こうして、3時間ほどかけてようやくできあがり。そのまま食べてもよし、薬味にネギを入れたり、ゆずを散らしたり。ゆずが絶妙に似合う
つぶし汁ができあがるころ、小田ちゃん、富永さんの仲間が集まってきた。そして、笑顔が広がっていく。モクズガニの悲哀は、みんなを幸せにするのだ
 

(写真=天野光豊)
(※1)江の川流域ポータルサイト
http://goriver.jp/

(※2)NPO法人『ひろしまね』
http://hsnt.jp/
 
 
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